第10話:剣士の適性検査

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第10話:剣士の適性検査

 パワハラな聖女の幼馴染を絶縁。  自由を手にして北に旅立ち、オレは北の名門キタエル剣士学園に入学。  だが道中で謎の激ヤセをして、風貌がイケメン風に激変。  同級生の女子たちに言い寄られなら、学園生活は波乱のスタートだ。  ◇  怒涛の入学式の翌朝になる。  朝の準備を終えて、オレは教室に向かう。 「よし、いよいよ初授業か……」  期待に胸を膨らませて、教室に入っていく。  中には三十人ほどの生徒がいる。  百人ほどの新入生は、三クラスに別れているという話だ。 「おお、ここか? 凄いな、設備だな……」  中を見渡して、思わず声をもらす。  今日指定された教室は、道場のような大部屋。  訓練用の的や、色んな模擬武器もズラリと並んでいる。  まさに剣士としての腕を磨く、実戦的な道場だ。 「ここならオレも強くなれそうな……気がするぞ」  本格的な設備を見て、胸が高まる。  同時に期待感もある。  今まで自己流で鍛錬してきた自分の剣技が、どこまで通じるのか。 「あー、ハリト君だ! おはよー♪」 「今日もカッコ可愛いね♪」  そんな時、教室に入ったオレに、数人の女子軍団が接近してくる。  昨日の積極的な女の子たちだ。 「あっ、うん。おはよう!」  この子たちは、あまりにも積極的すぎる。  あまり得意なタイプではないが、笑顔で挨拶を返す。  なぜなら朝の挨拶は、何よりも大事なのだ。 「キャー、笑顔もカッコ可愛い♪」 「だよねー♪」 「カッコ可愛い♪」  カッコ可愛い……昨日から耳にするが、どうやら造語のようだ。  おそらく『カッコいい+可愛い』の意味なんだろう。  最年少なオレの対する、彼女たちなりの褒め言葉なのだろう。 「ねぇ、ねぇ、ハリト君♪」 「今朝のご飯は、何だったの♪」  昨日と同じように、女の子たちは密着してくる。  身体に胸が当たるくらいに、距離が近い。  シャンプーの凄く良い香りで、頭がボーッとする。  あと制服のボタンを開けているので、真っ白な胸元が見えてしまう。 (うっ……これは朝から……刺激が……)  悪意がないので、こちらから拒絶はできない。  だが何よりも恥ずかしい。  誰か助けて欲しい。 「これより授業を始めます。全員、集まってください!」  そんな時、救世主が出現。  クラスの担任となったカテリーナ先生だ。 「じゃぁ、またねー、ハリト君♪」 「お昼ごはん、一緒に食べよー♪」  お蔭でキャピキャピ軍団は、離れていく。  女子と男子は分かれて並ぶので、有り難い。  よし……恥ずかしいから。  今度から教室に入るのは、開始ギリギリにしておこう。 「みなさん、おはようございます。それでは最初の授業を行います」  カテリーナ先生は今日も丁寧な口調。  今日は白衣を着ている。  着こなし具合から白衣の方が、普段の先生の仕事着なのであろう。  眼鏡もかけているから、綺麗な女医さんっぽい雰囲気だ。 「今日は最初ということで、適性検査を行います」  先生は今日のスケジュールを説明してく。  眼鏡の奥の瞳は、キリリと光っている。  授業中は、かなり厳しそうだ。 (今日は適性検査をやるのか……ん? “適性検査”ってなんだろう?)  初めて耳にする単語。  一体何を調べるのであろうか? 「ハリト君も、疑問に思っているようなので、適性検査について、簡単に説明していきます……」  先生と視線が合う。  また表情を読まれてしまったようだ。  オレの疑問に答えてくれるかのように、先生は適性検査の内容を説明していく。 「まず、この“剣士適性の魔道具”に、一人ずつ触ってもらいます。ここに剣士としての適性が表示されます……」  先生の説明をよく聞いて、オレはメモしていく。 (ふむふむ、最初は、あの魔道具……拳大の水晶を触ればいいのか……)  魔道具は魔力をエネルギーとした道具。  今回は適性検査用の、特殊な魔道を使うようだ。 「ちなみに適性は『ランク形式』で表示されます……」  先生の説明は続いていく。  かなり細かい話だが重要。  メモしてまとめた感じだと、ランク分けは次のように感じだ。  ――――◇――――◇―――― <剣士学園での適性ランク(大陸全学園で共通)>  ランクS:破格生:【大陸で最強】の剣士になれる可能性あり  ランクA:特別生:【大陸で有数】の剣士になれる可能性あり  ランクB:有能生:【国内で有数】の剣士になれる可能性あり  ランクC:普通生:努力しだいで【腕利き】の剣士になれる可能性あり  ランクD:低能生:努力しだいで【一人前】の剣士になれる可能性あり  ランクE :無能生:剣士としての才能は【皆無】。退学も検討せよ  ――――◇――――◇――――  まとめると、こんな感じだった。 (なるほど……最初から、適性を教えてくれるのか……ん? あっ、これって⁉)  その時であった。  オレはあること思い出す。 (この適性検査って……前に王都の屋敷でオレが、エルザから無理やりやらされたのと、同じだ……)  今から三年前の辛い出来ごとを思い出す。  聖女となったエルザは、従者のオレの似たような適性検査を受けさせた。  幼い時から才能が無かったオレは、本当は受けたくなかった。  だがエルザの暴力で無理矢理にやらされたのだ。 (うっ……あの時は、たしか……【ランクE】……つまり【無能生】だ)  封印していた思い出が、鮮明に甦る。  自分自身の剣士の才能の無さを、実感してしまった悪夢の結果を。 (いや……でも、今のオレは逃げない! 勇気を出して、挑むんだ!)  深呼吸して前を向く。  今のオレは卑屈な過去は捨てた。  どんな結果になろうと、剣士になることは諦めない。  たとえ百回受けて、全部【無能生】の結果が出ても怖くない。  そうなった自主退学して、自己鍛錬を続けていけばいいのだ。 「それでは適性検査を始めます! 順にどうぞ」  先生の説明も終わり、適性検査が開始。  最前列の生徒から、水晶に触れていく。 「「「おお! いきなりランクBが出たぞ!」」」  見ていたらクラスメイトから歓声があがる。  一人目の結果がでたのだ。 (ランクB……【有能生】か。すごいな……)  エルザに前に聞いた話。  剣士を志す者は、ランクC……“普通生”が多いという。  一方でランクB【有能生】は、全体の10%も満たない。  かなり貴重な存在なのだ。  ちなみに幼馴染のエルザは【ランクA】、学園風にいったら特別生。  聖女の称号をもらった彼女は、生まれ時から剣の才能にあふれていたのだ 「「「次はCランクか」」」 「「「あっ、Dランク……可哀想に」」」 「「「おお、またランクBが出たぞ!」」」  その後も適性検査が進んでいく。  クラスメイトの歓声が上がっていく。 (結果が出た人は……みんな、いろんな反応があるな……)  “ランクB有能生”の結果が出た人は、全員がガッツポーズしている。  “ランクC普通生”の人は『仕方がない』といった顔。  “ランクDの低能生”の人は、あからさまに悲しみ、悔し涙を流す者もいた。  問題のEランクは今のところ誰もいない。  そんな一喜一憂の雰囲気の中、適性検査はどんどん進んでいく。 (あっ、次はオレの番か……)  ついに自分の順番がやってくる。  心臓の鼓動が早くなってきた。 (オレはたぶんランクEの【無能生】だろうな。だが、怖くはないぞ!)  今のオレは前しか見ていない。  周りの雑音も一切聞こえてこない。 「では、次はハリト君、どうぞです」  カテリーナ先生の指示に従って、水晶に手をかける  結果はきっと【ランクE・無能生】。  だが――――恐れはしない。  右手の水晶に向かって、意識を集中する。  次の瞬間、水晶が爆発したように発光。 「ん?……えっ……?」  表示を見て、先生は言葉を失っていた。  表情も固まっている。 (いったい、どうしたんだろう?)  気になり、こっそり表示を覗き込む。  そこに浮かび上がっていた文字は――――【ランクX次元剣士】 (えっ……なんだ、これ?)  オレも思わず固まる。  先ほどの説明では、こんなランクはなかったはず。 (というか……【ランクX次元剣士】ってなんだ?)  明らかに異常な表示。  ちょっと厨二病的でかっこいいけど。 「まさか……あの伝説の表示が……この学園に……」  先生が、そう呟いた直後。  事件は更に起きる。  ヒュー、ボン!  なんと水晶が音を立てて破裂。  破片も残らず消滅したのだ。 「お、おい、“剣士適性の魔道具”が破裂したぞ……」 「なんか、眩しい光が光ったと思ったから、次の瞬間には消えていたわよね……」 「まさか、あのイケメン君が……?」  頑丈なはずの魔道具が、まさかの消滅。  見ていたクラスメイトは、一斉にザワつき始める。  誰も何が起きたか、理解できていないのだ。 「えーと、ハリト君……」 「いやー、先生! 不良品って、怖いですね! はっはっは……」 「そ、そうですね……それでは、午前の検査はここまで。各自でお昼を食べてください」  絶対に壊れない魔道具が、跡形もなく消失してしまった。  カテリーナ先生の顔は青ざめていた。 「あと、今日の午後の授業は……たぶん自習になります」  なんでも午後は、緊急の職員会議と開くから、自習にするという。  自習と聞いて、クラスメイトは大喜びしていた。 「あと、ハリト君……」  そんな中、先生は神妙な顔で、オレ話しかけてくる。 「あなたは放課後、私の部屋に来て下さい。絶対に逃げないでください」 「えっ、先生の部屋ですか……」  まさかの勧告。  もしかしたら弁償の処分になるのかな  こうして波乱の適性検査は終わり、放課後オレは出頭するのであった。
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