第18話:魔の森

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第18話:魔の森

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。  謎の激ヤセでイケメン風に、クラスの女の子からも高い好感度を。  転入生のお姫様マリエルの暴走を助け、彼女と同居を開始。  クラスの皆から揶揄(からか)われてしまったけど、なんとか良くしてももらっている。  ◇  今日は土曜日。  マリエルと出会ってから、初めての週末だ。  彼女との約束通り、オレたちは二人で特訓にきた。 「ここが“魔の森”……」  目の前に広がる光景に、マリエルは緊張を高める。  やって来たのはキタエルの街から、少し離れた所にある深い森。  学園では通称“魔の森”と呼ばれる場。  ここは普通の森とは違い、魔物や魔獣が生息している危険な場所だ。 「かなり危険そうですね。ハリト様、ここは……」 「そんなに緊張しなくても、大丈夫だよ、マリエル。先生の話では、森の浅い所には、弱い魔物しかいないみたいだから」  ここを教えてくれたのは担任のカテリーナ先生。 『剣の実戦稽古をしたい』と言ったら、この森を紹介してくれたのだ。  何でもこの魔の森は、代々キタエル学園の生徒にとって、秘密の特訓場所だという。 「なるほど、そうでしたね。それに今はハリト様がいるので、私は安心しています」 「あっはっは……魔物探索の経験はあるけど、オレにあんまり期待しないでね」  オレは王都にいた時、魔物退治の経験がある。  経験といっても、聖女であるエルザの荷物持ちで同行しただけ。  面倒な索敵や野営の準備など、雑務に関しては全て担当だった。  そのため実際に魔物を、討伐した経験はほとんどない。  一方で王女であるマリエルは、今回が全て初体験。  魔物ですら、ちゃんと見たことがない。  城の稽古で対人戦には慣れているが、こうした場所は不慣れだった。  だから今日は、あまり無理をしないスケジュールでいく。 「さて、まずは授業で習って技で、周辺の魔物を探してみようか」 「【探知・魔】ですね、ハリト様?」 「そう、それ!」  この大陸の剣士は魔力を使って、いろんな技術を使える。  一番、大事なのは剣術技。  だが、それ以外にも細かい技も習得できる。  その中の一つが【探知・魔】。  魔力を消費して、周囲の他の魔力を感知できる技だ。  剣士学園では最初に方に習う、初級の探索術だ。  今回は魔物を探索するために使う。 「それでは私から試してみます……いきます、【探知・魔】!」  精神を集中して、マリエルは【探知・魔】を発動する。 「ん……これは? ハリト様、この先に何か感じます? なんか小さく光っているような感です?」  マリエルが何かを探知していた。  ここから一番近い魔物を、見つけたのであろう。 「先生の説明だと、光の強弱が魔物の強さの、一応の指針になるはずよ、マリエル」  探知系の技術は光の強さで、色んな情報が得られる。  オレたちはまだ初級。  もう少し精度が上がっていくと、光の色や形で、多くの情報も入手可能になるのだ。 「はい、覚えました。この明るさと大きさを、今後の基準にしていきます」 「それじゃ相手に気が付かれないように、いこうか!」 「はい、わかりました!」  オレたちは森の中に入っていく。  獣道を慎重に進んでいく。  マリエルの探知によると、目標はこの先にいるはず。  オレたちはまだ初級なので、それほど広範囲まで探知できない。  このまま進んでいけば、早いうちに魔物の遭遇するはずだ。 (あっ、そうだ。オレも念のために、【探知・魔】の練習をしておこう)  歩きながら意識を集中する。  自分の周囲に円を描くように、全方位に意識を差し向ける。 (よし……【探知・魔】!)  前を進むマリエルに気を付かせないように、小声で発動させる。  さて、オレはどのくらいの範囲まで探知でるかな? 「なっ……⁉」  探知結果が頭の中に浮かび、オレは思わず声をもらす。 (なっ、なんだ……この広範囲⁉)  頭に浮かんだ範囲が、尋常は広さではなかった。  この森の全域の生き物は全てカバー。  遠くキタエルの街の反応もあったのだ。 (な、なんだ……これは⁉ オレは夢でも見ているのか……)  まさかの結果に自分自身が、一番信じられない。 「おや? 今なにか……魔力で探知されたような気配が? ハリト様も感じませんでしたか? 凄く強力な魔力を……」  前を進むマリエルが、足を止める。  オレの【探知・魔】の魔力の流れを感じたのだ。 「えーと、そうかな? 気のせいじゃない?」 「そうですか……でも、ハリト様の言うのなら、間違いありません。私の気のせいでした」 「そうそう、気のせいだよ、きっと! ほら、森の中は“木の精”がいるっているからね」 「ふっふっふ……御冗談も素敵ですね、ハリト様」 「そ、そうかなー? よし、先に進もう!」  親父ギャグで、何とか誤魔化すことにも成功。 【探知・魔】が強力すぎたことは後日、調べてみよう。  オレたちはさらに先に進んでいく。 「あっ、ハリト様……あれは……?」  マリエルが前方に動く物を発見。  移動する足を止める。 「ああ、そうだね。あれは魔物だね。さて、ここから、どう行動するから、授業を覚えている、マリエル?」  今回はマリエルの初の魔物狩り。  訓練の一環でもあり、要所で授業の復讐をしていく。 「はい、覚えております。たしか……『探知した魔物を発見したら、周囲を警戒しながら、障害物を利用して風下から近づく』……でしたね?」 「そう。正解」  剣士学園の授業では、戦闘以外にも色んなことを教えてくれる。  その中には、こうした森での隠密の授業もあった。  真面目なマリエルは、ちゃんと習ったことを覚えていた。 「よし、実践してみよう」 「はい」  オレたちは気配を消しながら、魔物に近づいていく。  最初は豆粒程度の大きさで、見えていた距離。  次第に魔物の種類まで、確認できる距離まで近づく。 「ハリト様、あの形状は……もしや子鬼(ゴブリン)ですか?」 「そうだね。正解だ」  森の浅い所にいたのは、緑色の醜い魔物、子鬼(ゴブリン)だった。  オレも見たことがある魔物だ。 「学園の図鑑で見るよりも、それほど大きくありませんね?」 「たしかに。でも、油断は大敵だよ。アイツ等は一匹では弱いけど、群れる習慣があるから」 「そうでしたね。さすがはハリト様。あっ、見てください。あちちにも何匹かいます」  子鬼(ゴブリン)は全部で五匹いた。  おそらく小動物の狩りの途中なのであろう。  全員が汚れた短剣や、貧相な弓矢で武装している。 「さて、ここからどうする、マリエル?」 「えーと……相手が群れの場合は、たしか……『先制攻撃で相手の数を減らす。そして相手が混乱している内に、一気に仕留めていく』でしたね?」 「そう、正解だ」  剣士学園の座学授業では、多勢への対応策も教えてくれる。  授業で習ったことを思い出しながら、マリエルは必死で状況を観察している。 「じゃあ、そろそろ攻撃を仕掛けるけど。マリエル、本当に大丈夫そう?」  最終的な攻撃の意志を、確認する。  何しろ相手は魔物とはいえ、人型の子鬼(ゴブリン)。  人型は戦いやすいが、罪悪感が半端ない。  攻撃が直撃すれば相手は血がしたたり落ち、断末魔の悲鳴を上げるのだ。  優しい性格のマリエルのことが心配だった。 「ご心配ありがとうございます、ハリト様。正直なところ、私、怖いです……」  小さな肩を震わせていた。 「ですが……頑張ります。何故なら私は剣士の一人……強くなりたいのです!」  だがマリエルの瞳には、強い光が燃えていた。  それは確固たる覚悟。  多くの弱きものを守る者、剣士としての意思の力だった。 「そうだね。オレたちは強くならないとね。よし、じゃあ、いこう!」 「はい!」  こうしてオレたちは魔物に攻撃を開始するのであった。
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