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第6話:キタエルの街
パワハラな聖女の幼馴染を絶縁。
今まで奴隷のように不自由だったオレは、栄光の自由を手にした。
旅の道中、時間が一万倍な【次元の狭間】のループ迷宮を攻略。
――――の白昼夢も見た。
その後、魔獣に襲われていた、銀髪の少女の一行にも遭遇。
◇
「おお……ここが、キタエルの入り口か!」
色んなことがあったけど、目的地に到着。
街に入るための城門を見上げる。
ここから見た感じ、他の街と同じ入場システム。
衛兵に通行税を払えば、誰でも街に入れるようだ。
中に入るための列に整列。
やっと自分の番やってくる。
「次の人、どうぞ。ん? ボウズ、お前、一人だけで来たのか?」
いきなり衛兵に、疑惑の視線を向けられる。
童顔なオレは、どうやら未成年に見られたらしい。
「オレはもう十三歳です。これ市民証です」
「おっと、こりゃ、本当だな。ボウズ、失礼したな」
まだボウズ呼ばわりしてくるが、衛兵の表情は明るい。
悪い人ではないのだろう。
「この市民証だと、王都から来たのか。こんな辺境の街に、いったいなんの用事だい?」
市民証を確認しながら、衛兵は来訪目的を訪ねてくる。
彼らの仕事は不審者を見破ること。
こうして色んな質問をして、相手の反応を見破るのだ。
「オレは剣士学園に入りたくて来ました!」
「剣士学園にだって? そのためだけに王都から、はるばる歩いてきたのか、お前⁉」
衛兵が驚くのも無理はない。
王都に住む者なら、普通は王都学園に入学する。
王都からここまで、どんなに急いでも一ヶ月以上の距離。
ここまでの酔狂者は滅多にいないのであろう
「はい……オレはどうしても剣士になりたんです。だから、最後の希望である、この街を頼ってきました!」
「そうか……そういう事情だったのか。オレも若い頃は、同じように剣士に憧れていから、ボウズの気持ち、分かるぞ」
「えっ……オジサンも……?」
衛兵のオジサンは少し遠くを見つめ、優しい顔になる。
「よし、合格だ。これが許可証だ。時間を取って悪かったな。目当ての“剣士学園”は街の北の外れにある。あそこは少し古い建物だが、悪い学園じゃないはずだ。頑張ってこいよ、ボウズ!」
「はい! ありがとうございます!」
街の中で使える許可証を、無事に発行してもらう。
頭を深く下げて、親切な衛兵のオジさんに、感謝の気持ちを伝える。
(良い人だったな。なんかキタエルは、王都よりも人情味がある街だな……)
感謝しながら感慨深くなる。
今まで住んでいた王都は、王国一の大都会。
だが、その分だけ住んでいる人は、冷たい雰囲気があった。
一方でキタエルは入ってきた瞬間に、何とも言えない暖かい雰囲気。
先ほどの衛兵のオジサンと接しただけで、オレはこの街のことが好きになっていた。
(頑張って、来てよかったな……)
暖かい気持ちになりながら、オレは城門を潜り抜けていく。
「おお……これがキタエルの街の中か。すごく、活気があるな……」
城門を抜けた先、街の中は賑わっていた。
正門から三方向に向かって、大通りが伸びている。
左右に様々な商店が立ち並び、隙間には露店にあった。
様々な人種の通行人が行き交い、通りは荷馬車や交易商人でごった返している。
「すごく楽しそうな街の雰囲気だな……」
一ヶ月以上野宿生活だった自分にとって、久しぶりの大きな街の賑わい。
眺めているだけで、心が踊ってきた。
「おっと……さっそく、剣士学園に行かないと」
久しぶりの街の賑わいを、楽しんでいる場合ではなかった。
衛兵のオジサンに教えてもらった方角に向かって、通りを歩いていく。
しばらく進むと街の雰囲気が変わる。
北の外れの区画に入ったのであろう。
急に人通りもまばらになり、周囲の建物も古びた雰囲気になる。
「もうすぐ、キタエルの剣士学園か……どんな所なんだろう……」
歩きながら想像を含まらせる。
オレが見たことがあるのは、王都の剣士学園だけ。
柵の中まで入ったことはないが、あそこは凄く立派な施設だった。
五階建ての豪華な建築物。
敷地面積も広く、ちょっとした貴族の庭園よりも広大。
とにかく王都の剣士学園は凄く立派だった。
「キタエル学園も、きっと凄いところなんだろうな……」
王国内に数ある剣士学園の中でも、“キタエル学園”は名門として昔から有名。
今まで数々の有名剣士を輩出。
王国内外の剣士大会で、好成績を収めていた。
その栄光は、田舎の村に住んでいたオレも聞いていた。
だからキタエル学園は、密かに幼い時から憧れていたのだ
「ん? あれは?」
そんなことを考えていたら、看板が見えてきた。
“キタエル剣士学園”と書いている。
間違いない、この先にあるのだ。
幼い時から憧れていた剣士学園が。
「つ、ついに……か」
期待と緊張で、心臓の音がバクバクしてきた。
心を落ち着かせならが、進んでいく。
そいて案内の看板を目印に、正門らしき場所に到着した。
「ここが……キタエル剣士学園か……」
間違いない。
正門の横の看板に、大きくそう書かれていた。
ようやくオレは憧れの地に、たどり着いたのだ。
「……でも……なんか、変だぞ、ここは?」
感動から冷めて、ふと冷静になる。
何故なら正門の様子が、何やらおかしいのだ。
「随分と……薄汚れているな。それに、守衛さんもいないのかな?」
正門には詰所もある。
だが長年使われていない形跡。
王都学園にいたように、正門を警備する守衛もいないのだ。
「本当に……ここがキタエル学園なのかな? 違うところに、引っ越したとか?」
名門と名高いイメージとの、ギャップが激しい。
自分が道を間違えたのでは?
目の前の光景を受け入れられずにいた。
「ん? そこのキミ? 何か用ですか?」
呆然としていたオレに、眼鏡をかけた女性が近づいてくる。
歳は二十代後半くらいだろうか。
キレイな大人の女性だ。
ん?
敷地内から来たということは……間違いない、この人は学園関係者だ!
「オ、オレの名前はハリトと申します! 一人前の剣士になるために、王都からやってきました! この学園は推薦状が無くても入れると聞いてきました!」
急いで王都の市民証と、キタエルの入場許可証を提示。
大きな声で名乗り、来訪の目的を告げる。
「ギリギリ今日、入学希望者ですか。歳はいくつですか?」
「はい、十三歳です!」
眼鏡の女性は丁寧な口調だが、目はキリリと光っていた。
だから元気よく真面目に返答する。
「なるほど。年齢も入学ギリギリですね」
「まだ若輩ものですが、基礎体力には自信があります!」
幼い時から基礎トレーニングだけは、欠かしたことがない。
自分の長所を明確にアピールする。
「名前はハリト君ですね……合格です。私は教師のカテリーナです」
「えっ……合格? 今のが面接だったのですか……先生?」
まさかの事実に、思わず聞き返してしまう。
普通は面接いえば、個室で担当者が行うイメージ。
間違っても正門前で、立ち話感覚でするものではない。
「不思議に思うのも無理はないですね。何しろ今のうちの学園は、面接官も雇えないから、各教師に一任されているのです。それでは敷地内を案内します」
えっ、面接官を雇えない?
何やら様子がおかしい。
名門学園に、いったい何が起きているのだろうか。
「あっ、はい、よろしくお願いします!」
だが今は先生を信じるしかない。
こうしてオレは無事にキタエル剣士学園に入学するのであった。
――――というか、本当にこの学園は大丈夫なのか?
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