第1話:辛口で甘い関係のプロローグ

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第1話:辛口で甘い関係のプロローグ

 中学三年生のオレには、同い年の芽愛(めい)という幼馴染がいる。  芽愛(めい)は一言で説明するなら『天使のような(はかな)い外見に、容赦のない辛口な美少女』だ。  更に芽愛(めい)のスポーツ万能で、学校の成績も良い方。  やや小柄で細く見えるけど、スタイルも良い。  あと……胸もちょうどいい大きさ。  口は少し悪いけど、逆に学校の男子には、それも人気のポイント。 『天使な小悪魔』 『(ののし)られたい女子ランキング永久一位』  そんな二つ名もある。  外見は天使のように可愛いが、普通の男子は誰も近づけないハイスペックな美少女だ。  ◇  そんな完璧に近い幼馴染に比べて、木村(きむら) (いつき)こと、オレは普通の男子。  運動や勉強は普通。  見た目もパッとしない。  そんなオレと芽愛(めい)は“月とスッポン”だけど、家が隣同士の幼馴染な関係。  幼稚園……小学低学年……幼い時は、毎日のように一緒に遊んでいた。  本当に仲良かった。  だが思春期の中学生になってから、オレたちの関係は微妙な距離になった。  互いに前のように、無邪気に話せなくなる。  特に芽愛(めい)の方が、大きく変わっていったのだ。 「樹くん……もう一緒に登校することはできません……理由は聞かないでください」  家の前で偶然会っても芽愛(めい)は、そんな冷めた対応をとるようになった。 「そ、そっか……オレたちも、もう子どもじゃないんだから、仕方がないよね。わかった」 「あっ……」  芽愛(めい)は何かを、言いたそうな時もあった気がする。  だがオレはあえて聞かない様にしていた。  何故なら芽愛(めい)に、嫌われたくないから。 (芽愛(めい)……今日も学校で、可愛いな……)  正直に話しと、オレは幼馴染に片思いしていた。  ずっと好きだったのだ。  いつから好きだったか?   それは自分でも覚えていない。 『気が付くと、いつも視線で追っていた』……そんな感じで片思いをしたのだ。 (でも中学時代が、こんな感じになっちゃったから……この想いは一生、胸にしまっておこう……)  無理に告白なんかして、幼馴染の関係を壊したくなかった。  幼稚園や小学生の時に、毎日のように楽しく遊んでいた思い出は、二人だけの宝。  オレの自己満足な告白で、無にしたくなかった。  だから中学時代の三年間は、ずっと芽愛(めい)のことを遠くから見ていただけ。  オレは普通の中学男子として、趣味や勉強に没頭。  ――――そして不遇な片思いの三年間は、もうすぐ終わろうとしていた。 (ふう……同じ高校に進学するけど、また見つめるだけの三年間になりそうだな……)  オレたちは同じ高校に合格した。  嬉しい反面、胸が痛くなる。  なぜなら幼馴染の青春な高校生活を、きっとオレは見ているだけしか出来ないからだ。  ◇  だが、オレの予想は大きく外れる。  想定外のことが起きたのだ。  高校になってから、芽愛(めい)のオレに対する態度が激変。  距離が近くなってきたのだ。  彼女は何かとグイグイ距離を詰めてきた。  また一緒になった通学路で……。  誰もいない校舎の教室で……。  二人で出かけた先で……  そして一人暮らしのオレの部屋で……。  芽愛(めい)は何かと理由をつけて、オレに距離を詰めてくるようになったのだ。  オレは戸惑いながら、でも最高に幸せな高校生を送っていく。  ◇  そして芽愛(めい)の態度が、更に激変する事件が起きる。  それは高校三年の時、  ある夜のことだった。 「イッくん……しゅき……ずっと……だいしゅき、だったんだから……」 「えっ……め、芽愛(めい)……どうしたの……?」 「もう……離さないんですから……ギュッ」  潤んだ瞳に見つめられ、オレは“運命の日”を迎えることになったのだ。  ◇  ◇  これは天使のような外見で少し口が悪い幼馴染と、実は両想いだったオレ。  そんな二人の距離がじれじれ縮まる、高校入学直後からの甘めな学園ストーリーである。
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