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第8話:二人の関係(前編)
幼馴染の美月からの突然のママ宣言。
何がなんだか分からないまま、オレの生活は今日も波乱万丈に続いていく。
◇
今朝も美月は、部屋に起こしきてくれた。
お蔭で遅刻せずに、教室に到着。
「おっはー、ソウタ」
「ユウト、おはよう」
いつものように親友の優斗と挨拶する。
先生が来るまで、いつもようにコイツと雑談タイムだ。
「そういえば、ソウタ。お前、あの噂、知ってるか?」
「えっ? “あの噂”……なにそれ?」
自慢じゃないがクラス内の噂には、かなり疎い。
「お前、本当に情報難民だよなー」
「悪いかよ。で、なんなの?」
噂には疎いが、嫌いではない。
小声にして優斗に訊ねる。
「なんか、サッカー部のやつの話だと、二年のイケてる先輩が、うちのクラスの女子を狙っているらしいぞ」
「へー、そーなんだー」
「うわぁ、なんだ、そのあからさまな反応は! 相変わらず恋バナは興味なのかも? せっかく教えてやったのにさー」
「わりー、優斗。でも、恋愛話は、別にいいかな?」
オレは噂話を好きだが、恋愛話だけ対象外。
だって人様の恋愛の話を聞いて、何が楽しいんだ?
それよりもオレは自分のことを何とかしたい。
「あー、相変わらずだな、蒼大は。そんなだから、中学から彼女無しなんだぜー」
「ほっとけ。オレは勉強と家事で忙しいの」
正直なところ一人暮らしを維持していくだけ、今は毎日が手一杯。
放課後は買い物や家事で、あっとう間に時間が過ぎていく。
だからクラスメイトとカラオケなんかに遊びにいく、余裕はないのだ。
「あー、そうか。今の蒼大は、家事もあるからなー。一人暮らしも、楽じゃないんだなー」
「そーいうこと」
「そこ、静かにしてください」
「「あっ、やべっ!」」
担任の女性先生がやってきた。
優斗とのおしゃべりを止めて、前を向く。
こんな感じて、この日は何も事件が起きずに過ぎ去っていく。
◇
そして、翌日。
「おっす、ソウタ」
「ユウト、おはよう」
いつものように親友の優斗と雑談タイム。
だが、この後、オレは衝撃的なことを聞く。
「そういえば、昨日の噂、覚えているか? すげー、続報があるんだぜ」
「昨日の? いや、だから恋愛話は、いらないから」
「いや、聞いて驚くなよ。サッカー部の二年が狙っているのは、なんと……あの片倉さんらしいぞ」
「え……かたくら……さん?」
まさかの名前が出てきた。
クラス内で片倉の姓は一人だけ……美月しかいない。
「なっ、驚いただろう。サッカー部の奴の話だと、その二年、近いうちに片倉さんに告るらしいぜ」
「えっ……告白? あの、片倉……さんに?」
まさかの情報に、オレは思わず美月に視線を向けてしまう。
「ちょ、片倉さんの方を見るなって。これはクラス内じゃ、オレたち知らない情報だからさ」
「そ、そうなんだ……」
「いやー、ビックリだよなー。どういう結果になるんだろうな? 蒼大、お前、どう思う? たしか家、近かったよな、片倉さんと?」
「ま、まあ、近いけど、それは小学の学区が一緒だっただけで、まぁ、とくに仲がいいわけでもないし、とくに興味もないわけで、恋愛話にはさ……」
「ふーん、そうなんだ。まぁ、この噂の続報があったら、また教えてやるからな」
「あ、うん。そうだな……よろしく、たのむ……」
ちょうど担任の女性先生がやってきた。
優斗とのおしゃべりを止めて、前を向く。
朝のホームルームが始まるのだ。
(えっ……美月が告白されてしまうかもしれない? 二年のサッカー部の人に?イケてる先輩に?)
だが今のオレの心は、ここにあらず。
一日中、噂のことをばかり考えていたのだ。
◇
その日の放課後になる。
また今日は美月が、晩ご飯を作りに来てくれた。
メニューはカレーライス。
具の大きさがバラバラすぎて、固い人参とジャガイモがあった。
でも味は普通に美味しかった……ような気がした。
(美月……告白されたら、どう答えるんだろう……)
オレは味を感じられる、平常な状況じゃなかった。
幼馴染が部屋に来ていても、オレはずっと上の空。
いや、美月がいたからこそ、学校よりも動揺していたのだ。
「……ソウちゃん、今日はどうしたの? ずっと元気ないけど?」
「えっ? いやー、オレは元気だよ! ほら! こんなにジャンプもできるし! はっはっは!」
危ない。
慌ててカラ元気で、美月に気がつかれないようにした。
「……そう。じゃあ、帰るから」
「うん……ご馳走様でした……」
その日は何とか気がつかれずに済んだ。
よかった。
でも美月と、ちゃんと目を見て話すことは、出来ていなかった。
とても後悔した。
◇
そして更に事件が起きる。
ショッピングな内容が、翌朝の優斗の口から発せられたのだ。
「最新ニュースだぞ、ソウタ。例のサッカー部の二年、今日の放課後に、片倉さんに告白するらしいぜ」
「えっ……今日の……放課後に? えっ?」
「ああ、何でも、下校の途中で、待ち伏せするらしいぜ。いやー、どうなるか、興味あるわー」
「そ、そうか……今日の放課後に……」
まさかの事件が起きようとしていた。
(どうしよう……いや、どうすれば、いいんだ、オレは……)
こうして運命の一日、オレにとって長い一日が幕を開けたのであった。
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