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第11話:小学生3年生になった
オレは小学3年生になっていた。
3年生になったからといって、特に変わったことはない。
相変わらずサッカー漬けの毎日である。
「行ってきます!」
「お兄ちゃん、待ってよー。アオイも行く!」
前と同じように妹の葵(あおい)と登校する。
葵(あおい)は2年生になっていたが、なぜかオレと登校をしたがるのだ。
もしかしたら妹もサッカーばかりしているから、学校に友達がいないのか?
兄として心配だ。
「アオイはお兄ちゃんのことが好きだから、一緒に登校したいの!」
そうか、そういうことか。
母親に後で聞いてみたら、妹はクラスでも人気者らしい。可愛い上に、スポーツ万能だから。
兄として、少しほっとした。
そういえばサッカーばかりしていて、友達がいないのはオレの方だった。失礼しました。
◇
「ねえ、コータ君。放課後に公園で、皆でゲームして遊ぼうよ?」
「ごめん。これからサッカーの練習があるから。じゃあ、また明日ね!」
放課後。
オレは一人(ぼっち)ぶりを発揮する。
クラスメイトの遊びの誘いを全部断り、急いでサッカーの練習場に向かう。
何しろクラスメイトが盛り上がっているゲーム。前世でオレは20数年前に、全てクリアしていた。
今さらそんな子供だましのゲームに興味はない。
「あれ、そういえば……今世のオレは眼鏡をしていないな」
帰宅途中に、ふと気が付く。
前世のオレは、幼い頃からゲームっ子だった。父親がゲーム好きだった影響だ。
その悪影響もあり、オレは小学2年生から眼鏡をかけていた。
だが今世での視力検査は、両目とも2.0以上だった。
もしかしたら、
・ゲームや子どもテレビを一切見ない。
・スポーツビジョンと判断力のトレーニングを、しているから。
この二つの習慣が、視力の向上に繋がっていたのかもしれない。
スポーツ選手として視力はかなり大事。
前世よりも向上している自分の能力を、実感して感動する。
「それに身長も伸びたよな」
前世では身長はクラスでも、前から5番目くらいが定位置であった。やや小さ目なポジションだった。
だが今世ではクラスでは、後ろから3番目に大きい。
こっちの方はおそらく
・毎日の睡眠を夜の9時間半。昼寝の30分。成長ホルモンを促している
・前世とは違い好き嫌いなく、バランスよくご飯を食べる
・毎日ストレッチと柔軟を丹念にする。
・勉強で座っている時と、歩く時はスポーツ理論に従って、姿勢よく常に意識する
この4つの習慣が、好影響だったのかもしれない。
前世では親に内緒で、夜遅くまでゲームをしていた。また食べ物の好き嫌いも、沢山していた。
それを今世では改善している。
やはり適切な睡眠と食事、運動は成長に関係あるのであろう。
「それに足も速くなっているし」
三つ目の自分の変化。
前世ではオレは走るのが、面倒くさい性分だった。運動は嫌いではないが、練習が嫌なタイプだった。
だが今世ではサッカーを中心に、トレーニングを積んできた。そのお陰もあり、足もかなり速くなっている。
具体的な例だと、小学校2年の運動会で、学年のリレーの選手にも選ばれていた。
これも適切な睡眠と食事、運動のお蔭であろう。
そう思うと、サッカー少年は万能なのかもしれない。
あっ、少し訂正。
学校のクラスで一人(ぼっち)以外は、万能である。
「よし、今日も頑張ってサッカーをしよう!」
今のところ人生のやり直しては、順調いっている。
でも油断は大敵。
オレは気合いの声と共に、サッカー場に駆けていくのだ。
◇
放課後の4時頃から、5時まではサッカー場で一人自主練する。
「よし、練習を始めるぞ!」
「「「はい、よろしくお願いします!」」」
夕方5時になる。
コーチの掛け声と共に、練習がスタートする。
選手コースの5、6年生が一斉に動き出す。
「野呂コータ、お前もガンガンいけ!」
「はい!」
そういえば3年生になり、オレに環境の変化があった。5、6年の選手コースへの転属となったのだ。
これにはかなり驚いた。
何故なら5、6年の選手コースといえば、小学生のジュニアの最高年齢のチーム。つまり小学生年代のこのチームの代表なのだ。
「澤村ヒョウマ、お前もガンガンいけ!」
「はい、コーチ。オレ様の力を見せつけてやります」
そう言えば同じく3年生で、昇格して仲間がいた。
昨年の夏休み過ぎから、正式なチームメートになった澤村ヒョウマ君である。
ヒョウマ君は家族の都合で、この街に引っ越してきたらしい。コーチの話では何年かは、この街に住んでいくらしい。
「野呂コータ、今日こそはお前に勝つからな!」
「ヒョウマ君、こちらこそお手柔らかに」
何故か去年の夏休みの最初のミニゲーム。それ以来からヒョウマ君は、オレに絡んでくる。
チーム内のミニゲームでは、必ず敵同士のチームを志願していた。
またリフティングの回数対決。ドリブルのタイムアタックなど、どんなことでも勝負を挑戦してくるのだ。
「ちっ……このオレ様が同点か……」
はっきり言ってヒョウマ君が、何故絡んでくるかオレには分からない。
何故なら彼はこのチーム内でも、別格に才能がある。
今こうして5、6年生と練習しているが、その中でも一番目に上手いであろう。
体格差やスタミナで面は、たしかに5、6年生の方が現時点では上である。
だが圧倒的なサッカーセンスと、卓越したドリブルを中心とした技。また得点感覚を有する澤村ヒョウマの前に、そんな差は無意味に近い。
今もミニゲームで先輩たちを、ごぼう抜きにしている。
凄い! 相変わらず、カッコイイ!
オレは根っからのサッカー観戦オタクである。
ヒョウマ君の南米仕込みドリブルに見とれてしまう。あれで小学生3年生なのだか、今後の成長が楽しみすぎる。
「コータ! お前、ちゃんとやれ!」
おっといけない。コーチから激が飛んできた。
オレも頑張らないと。
今のところオレも何とか、ヒョウマ君に置いていかれないように努力していた。
1対1の勝負の場面でも抜かれないように、気合で必死に食らいつていた。スポーツ視覚を常に前回状態である。
また、オレが攻める時は少しだけズルを使う。
普通のフェイントやドリブルでは、ヒョウマ君のあの反応速度を振りきれない。
そこで彼の知らない技を使うのだ。
これから先の20年の間で、世界のトッププレイヤーたちが開発していく、未来の技の数々。それをこっそりと使って対抗するのだ。
何しろ未来のサッカーの技は、複雑なものが多い。これは初見では絶対に破ることは出来ないのだ。
前世の映像の記憶があるオレは幼稚園の時から、ずっと練習してきた。
身体も大きくなってきた最近になり、未来のその技の何個かを、ようやくマスターしたのだ。
未だに会得できない技も沢山ある。
でもコツコツと自主練していけば、いつかきっと使いこなせるであろう。
これもオレだけ持っている、サッカー転生のアドバンテージである。
「くっ⁉ 野呂コータ、また、その奇妙な技か⁉ だが今のオレ様には通じないぞ!」
なんとヒョウマ君は未来の技の一つを使って、オレに対抗してきた。
ちょっと、待ってくれ。
その技はオレが4ヶ月前に、抜くために何度か使っただけのフェイントだ。
オレが数年かけてマスターした未来の技。君はそれをたったの4ヶ月で、マスターしたというのか?
しかも誰からも教わることなく、何度か目にしただけで、自分のモノにしていたのだ。
やはり澤村ヒョウマは凄い選手だ。
よし、ボクも次なる技で、頑張らないといけない。
ボクにはサッカーの才能がないかもしれない。
だから20年後のサッカー記憶。あと諦めない精神力と、コツコツの努力だけが、アドバンテージなのだ。
「おい、待て、野呂コータ⁉ 何だ、今度の奇妙な技は⁉」
「内緒だよ、ヒョウマ君。さあ、いくよ!」
◇
こうして3年生になったオレの練習は、本当に充実した毎日を過ごしていた。
ヒョウマ君との練習以外でも、5、6年生たちとの練習も本当に勉強になる。
上級生はフォーメーションや連携や戦術を重視していた。
そんな先輩たちの練習をしていると実感が出てくる。『本当にサッカーをしているんだ』という実感が。
一人(ぼっち)自主練も好きだけと、やはりサッカーはチームで楽しむのが一番。
サッカーオタクのオレは戦術や陣形にも、少しうるさい。練習試合で自軍の戦術が上手くいった時は、感動すら覚えていた。
ああ、本当に楽しい日々だ。
不幸な前世とは違い、本当に充実したサッカーライフである。
よし、ボクも他の皆に負けないように、頑張らないと。
◇
こうして更に、あっとう間に月日は経っていく。
毎日のように自主練とチームでの練習。
週末は他チームとの練習試合や、小さな地方大会に参加。
夏休みは合宿なんかもあって、楽しいサッカー漬けの毎日だった。
3年生での季節は春が過ぎて、夏は一瞬で過ぎていく。
そして季節は秋となる。
秋に小学生サッカー業界で一大イベントが行われる時季。
全国に数千チームある小学年代のサッカーチーム。
その最恐を決める“全日本少年サッカー大会”の、地区予選がいよいよ始まるのだ。
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