第12話:初めての大きな大会に向けて

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第12話:初めての大きな大会に向けて

“全日本少年サッカー大会”  それは小学生のU-12世代(12歳以下)のクラブチームを対象とした、大きな全国的なサッカー大会である。  全国大会までの道は次の通りである。 ①まずは地区大会を開催して、その地区の代表を選ぶ。 ②各地区の代表同士が、県大会で各都道府県代表の1チームを選ぶ。 ③全国47都道府県+内前年度優勝都道府県のみ2チーム=合計48チーム。これが全国大会に出場となる。  もう少し簡単に説明すると、 ・地区大会で優勝  ↓ ・県大会で優勝  ↓ ・全国大会に出場できる  こんな感じの道筋。つまり“小学生のサッカーの甲子園大会”。  全国に数千ある小学生サッカーチームが目指す、一番大きな大会なのだ。 ◇ 「では、地区大会のレギュラーを発表する」  9月末の地区大会2週間前。  オレたちのチームの4年生から6年生までの、選手コースの全員が集合する。  コーチから地区大会でのレギュラー8人と、控え数人が発表される。ちなみに小学生の大会は最近では8人制が基本だ。  全日本少年サッカー大会は、コーチ陣も一番気合の入る大会。だからメンバーのベストメンバーでいく。    他の多くのチームも、6年生がレギュラーの主体となる。それ以外にも、才能ある5年生が入ったりもする。  何しろ小学生の時期の1歳の差は大きい。身長と体重はもちろん、筋肉量やテクニックで差がついてしまうのだ。  我がチームでもコーチから、どんどんレギュラー選手の名前が発表されていく。  選ばれた選手は、思わず声を上げて喜ぶ。一方で落選した者は、歯をくいしばり悔しがっていた。    まさに天国と地獄の瞬間である。 「……そして最後に澤村ヒョウマと野呂コータ。この16人で地区大会に挑む。では、大会をイメージして、練習を始めるぞ!」  最後に同席していた3年生の名前が、2人も呼ばれる。  野呂コータ……えーと、ボクのことだ。    他に同姓同名な先輩はいない。  まだ3年生であるボクは、なぜかレギュラーに選ばれてしまったのだ。  ヒョウマ君は充当な選出だが、オレは明らかにおかしい。 「あのー、コーチ。ボクはまだ3年生なんですが?」  こっそりとコーチに尋ねてみる。  もしかしたらオレは、マネージャー枠かもしれない。  それで喜んでしまったら、かなり恥ずかしい。ちゃんと確認をしておかないと。 「間違いじゃないぞ。コータと澤村、お前たちはうちのチームのエースで秘密兵器だ。頼んだぞ!」  なんか逆に頼まれてしまった。  これは仕方がない。控え選手かもしれないので、出番はないかもしれない。  とにかく自分のベストを出せるように頑張ろう。 「おい、野呂コータ。今度の県大会で、どっちが多く点を取るか、オレ様と勝負だぞ!」 「でも、ヒョウマ君。県大会に行くには、地区大会で優勝しないと……」  勝負を挑んできたヒョウマ君に答える。  オレたちのいるチームは、地区でも普通の強さである。  昨年の6年生は地区大会で4位であった。  つまり他の上位3チームに、リーグ戦で勝って優勝。そうしないと県大会にはいけないのだ。 「その心配は不要だ。たしかに5、6年生の連中は普通だ。だがオレ様がいたら、地区大会なんて楽勝だ」 「そうか……たしかにヒョウマ君は凄いからね」  ヒョウマ君はまだ3年生だが、別格のストライカーだ。  ここ数ヶ月にチームが参加した小さな大会でも、見事なハットトリックを連発していた。きっと地区大会でも活躍してくれるであろう。 「そ、それにお前もいるからな……」  ヒョウマ君は何やら小さく呟いて、去っていった。一体なんと言ったのであろうか。  それにしても全日本少年サッカー大会か。少し緊張してきた。  噂ではJリーグのスカウトマンも、全国大会に視察に来ているという。  そこで目立った有能な選手を、自分たちの中学生(ジュニアユース)のチームにスカウトするのだ。  前世でも全日本少年サッカー大会で活躍して、将来的にJリーガーになった選手もいた。まさにサッカー少年たちの、夢へのエリート街道なのだ。  よし、オレも頑張らないと!  自分の夢を叶えるためには、大会で目立つ必要がある。  そのためには、まずは地区大会で優勝をするしかない。  控えのオレの出番はないかもしれない。だが気合だけは入れておこう。レギュラー選手のために、応援の声を出すんだ。  その日から選手コースは、いつも以上に気合いが入っていく。  もちろんオレも更に努力を積み重ねていく。  そして、いよいよ地区大会が迫ってくるのであった。 ◇  10月上旬。数日間に渡って、激戦が繰り広げられた地区大会。  その幕が下りようとしていた。 「今年度の地区大会の優勝はリベリーロ弘前(ひろさき)!」  リベリーロ弘前……オレたちのチームが、何と地区優勝したのだ。  事前の下馬評を覆して、圧倒的な強さで優勝したのだ。  今は地区大会後の表彰式の最中。  チームのキャプテンの6年生が優勝メダルを授与される。  よっ、キャプテン! あんたが大将!  いつもはDFとしてチームを支えるキャプテンに、オレは心の中で声援を送る。 「地区大会得点王は同チームの澤村ヒョウマ君!」  なんとヒョウマ君は地区大会で、得点王になったのだ。  他のチームの歳上の抑えての、3年生での初の得点王だという。ヒョウマ君にもメダルが授与される。  それにしてもヒョウマ君の活躍は、本当に圧巻だった。  得意のドリブルやフェイントで、敵チームをごぼう抜き。  圧倒的な得点感覚でシュートを連発したのだ。  やっぱりヒョウマ君は凄い。  サッカー観戦オタクのオレは、本当に眼福な地区だった。同じチームメイトとして誇らしくある。 「続いて大会MVPは同チームの野呂コータ君!」  野呂コータ君……はい、オレの名前です。  何故か、どうしてオレがMVPに?  自分は得点もヒョウマ君に、1点差で負けてしまったのに。  一体どうしてであろうか……。 「野呂コータ君は小学3年とは思えない、視野の広さとテクニック、それに圧倒的な判断力で大活躍でした! 皆さん、もう一度、大きな拍手を!」  オレもMVPのメダルを授与される。中盤のMFとして走り回っていたのが、評価されたらしい。  会場中から、今まで一番大きな拍手が起こる。自分に向かってのお祝いの拍手だ。 「ちっ、野呂コータ……今回は引き分けだ。だが県大会ではオレ様は負けない! 何故ならオレ様は日々、進化しているからな!」  隣のヒョウマ君もお祝いの言葉をくれた。  サッカーが上手いだけではなく、本当にいい人だ。  それにしても、次は県大会か。  まさかチームが進出できると思ってもみなかった。  やはりエースストライカーの、ヒョウマ君のお蔭が大きいのであろう。さすが将来はプロ選手になる凄い。  あと5、6年の先輩たちの急成長も、かなりプラスに加わっていた。  オレが昇格した4月の頃から比べて、先輩たちは大幅に上達していたのだ。  テクニックもそうだが、練習での気合の入り方が半端ないのだ。  それにしても先輩たちのアノ気合の元は、一体何なのだろうか? 「それはな、コータ。お前ら3年坊にばっかり任せておけないからな!」 「そうだな。オレたちも上級生らしく、したいからな!」  授賞式を終えて、先輩たちと優勝を祝い合う。  そういえば5、6年の人たちは、オレとヒョウマ君のことをライバル視していた。ヒョウマ君はともかく、オレは少し恥ずかしかった。  でもカンフル剤になれたのなら、結果オーライである。 「よし、次は県大会の優勝を目指すぞ! そして目指せ、全国大会だ!」 「「「おー!」」」  授賞式を終えて、キャプテンを中心に叫ぶ。チームはめちゃくちゃ気合が入っていた。  ここまで来たので、オレも頑張りたい。  次の県大会まで、1ヶ月ほど期間が空いている。  これまで以上にオレは自主練習を頑張らないと。ヒョウマ君に置いていかれないように、自分も成長していかないと。 ◇  地区大会から更に1ヶ月が経つ。 「今年度の県大会の優勝はリベリーロ弘前(ひろさき)!」  ボクたちのチームはなんと、県大会でも優勝したのだ。 「県大会得点王は同チームの野呂コータ君!」 「続いて大会MVPは同チームの澤村ヒョウマ君!」  今度は逆の表彰式となる。  県大会中は無我夢中だった。そのお蔭でオレは奇跡的に、得点をたくさん取れたのだ。  まさかの得点王だった。  一方ではヒョウマ君は地区大会よりも、パスワークや判断力を向上させて大活躍。県大会のMVPに見事選ばれたのだ。  さすがはヒョウマ君だ。  あんなに嫌いだったパスワークや連携。それをたったの一ヶ月で、あそこまで向上させてくるなんて。凄すぎる。  それに最近のヒョウマ君の努力が半端ない。たぶん影でたくさん、自主練をしているのであろう。    サッカースパイクの消耗と交換が、激しかったのをオレは見逃していない。  才能がありながらも、更に陰で努力する天才……本当にかっこいい。 「ちっ、今度は得点王を逃したか……次は全国大会で勝負だ、野呂コータ」  舌打ちをしていたけど、ヒョウマ君はオレのことを祝ってくれる。ちょっとツンデレで可愛いとこもある。  それにしても、次は全国大会か……県の代表として出場するのだ。  正直なところ、まだ実感はまだない。  全国大会まで1ヶ月ほど期間が空く。だからそれまで、沢山練習しないと。  何故なら全国大会ともなれば、将来のJリーガー候補が各チームにいるのであろう。  ヒョウマ君や先輩たちだけには頼っていられない。これまで以上にオレも頑張らないと。 ◇  こうして、あっとう間に日は過ぎていく。  チーム練習と自己練習の毎日。全国大会に向けて、周囲の期待も徐々に大きくなっていた。  そして、いよいよ……全国大会の日がやって来たのだ。
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