15人が本棚に入れています
本棚に追加
第4話:幼稚園時代、無事に終了
サッカーボールを買ってもらってから、一年の月日が経つ。
オレは幼稚園の年中組になっていた。
「ご飯、いただきます!」
夕方六時半ころ。我が家の夕飯の時間となる。
オレは子どもらしく元気に挨拶をして、食事を開始する。
「ママ、ご飯、お替り!」
今日の夕ご飯は牛丼だった。白米がよく進む。
四歳となり身体が成長したオレは、ご飯をお替りする。
前世は好き嫌いが結構あった。だが今世では好き嫌いをしないで、ちゃんと食べることにした。
【サッカー選手になるための計画その3:食事をバランスよく、しっかりと食べる】
オレが31才だった時代には、ジュニアアスリートの食事理論というのがあった。
子どもは大人とは違い、食事でも多くのことに気を遣う。スポーツ選手を育てるには、計画的な食事が必須だった。
まずタンパク質やカルシウムを多目にとり、水分やエネルギーも適度に補充しないといけない。他にもバランスよく栄養が必須だ。
「ママ、このサラダも美味しいね!」
オレは大嫌いだったカボチャなどの野菜も、今世では積極的に食べていた。
「コーちゃんは最近、本当によく食べるようになったわね。ママ、嬉しいわ」
「コウタはパパに似て、大きくなるかもな? はっはっは!」
息子が食欲旺盛(しょくよくおうせい)で、両親も嬉しいのであろう。
最近の食事は前世よりも、バリエーションが増えたような気がする。
「アオイも好き嫌いしないで、食べる!」
妹の葵(あおい)も、オレの真似して食べていた。まだ3歳なのに、元気いっぱいに食べている。
「ニイニイ、ご飯食べたら、サッカーやろうよ!」
「うん、いいよ、葵(あおい)。少し休んだら、昨日のドリブルの練習をしよう」
3歳になった妹も、最近はオレを一緒に練習していた。
練習といっても、去年のオレの同じ状態。ボールタッチからのスタートである。
それでも妹は楽しそうに、サッカーボールで遊んでいた。
「よし、それならパパがまた、サッカーの動画を用意しておくぞ!」
最近では父親も積極的に、オレの練習に協力してくれていた。
サッカー経験の無い父の担当は、主にサッカーの動画を用意することだ。
奥の子ども部屋は今や、サッカー練習部屋と化していた。そこに専用のテレビを、父は買ってくれたのだ。
そこに流すのは同じく買ってくれた、サッカーのDVD“世界のトッププレイヤーのサッカーテクニック全集”。
オレはひたすらリピートで流していた。
「パパ、いつもありがとう!」
動画を見て練習するのは、今のところオレだけである。
自分の頭の中にも、世界中のプレイヤーの記憶はあった。だが実際にDVDの映像で見ながら、練習できるのは有りがたい。
足元のボールを一切見ないで、TVを見ながら練習。これも視野を上げる練習の一つだ。
サッカーの練習を始めて1年経つ。オレは前よりもだいぶ上達したと思う。
今ではボールタッチは感覚も、だいぶ分かるようになった。
それにリフティングも上達していた。まだ20回くらいしか出来ないが、足だけはなく、頭や肩のリフティングにも挑戦している。
毎日のように自分の身体が、上達していくのが本当に楽しい。
また幼稚園での“スポーツビジョンと判断力のトレーニング”も続けていた。これもかなり成長していると思う。
最近ではランダムな幼稚園の友達にも、だいぶ慣れてきた。眼球移動や動体視力も向上して、的確に遊ぶことが出来るのだ。
ちなみに最近の平日のスケジュールは
――――◇――――◇――――
朝6時:起床。8時半までの幼稚園バスまで自主練習(食事と準備はテキパキと)
午後2時まで:幼稚園で本気で遊びながら、スポーツビジョンと判断力のトレーニング
午後2時から3時まで:家で昼寝(昼寝でも成長ホルモンを促すため)
午後3時から夕方5時まで:家の隣の空き地でサッカーの練習
午後5時:暗くなる前に家に戻り。夕飯まで自室でサッカーの練習
午後6時:父親帰宅。夕飯とお風呂と歯磨きの時間
午後7時~8時半まで:自室でサッカーの練習
午後9時:就寝
――――◇――――◇――――
こんな感じの一日を過ごしていた。
妹の葵(あおい)も家では、一緒に練習している。だが普通の子どものまだ3歳児。集中力はあまりない。
それに比べたら精神年齢が31歳のオレは、かなり集中力がある。一日何時間もサッカーのことも苦ではない。
前世の辛い毎日や、苦しい記憶に比べたら。今の人生は本当に楽しい。
またオレは身体のケアにも、気を付けている。
柔軟とストレッチは毎日していた。そのお陰もあり、身体がかなり柔らかくなってきた。
前世のオレはかなり身体が堅かった。それが柔軟のお蔭で、床にペッタリ付くようになった。
スポーツ理論によると、サッカー選手は下半身の柔軟性が大事だと言われていた。柔軟とストレッチは今後も必ず続けていく。
そんな中でも過度なトレーニングには気を付けていた。
成長期に過度なトレーニングは逆効果である。特に器具を使った筋トレは、危険すらもあるという。
今のところのサッカーの練習は、足ワザとドリブル、ステップ。フェイントとリフティングを中心にメニューを組む。
シュート練習も少しだけ。ハードな練習は自分で禁止していた。まだ成長しきっていない心臓や肺に負担は禁物だ。
とにかく裸足でサッカーボールを触る時間を多くしていた。
◇
「そういえば、コウタ。今度の休みは、どうする? アニメの映画でも見に行くか?」
土日は幼稚園がない。
父親も会社が休みなので、家族四人で一緒にいる二日間だ。
「パパ、ボクは公園がいいなー。サッカーの練習をしたい!」
他の子どもたちが遊んでいる時間も、全てサッカーのために費やす。オレの人生計画にブレはなかった。
両親には申し訳ないが、可愛げのない子どもである。
「はっはっは……実はコウタが、そう言うと思って、Jリーグのチケットを買っておいたぞ!」
「本当⁉ パパ、ありがとう!」
子どもたちがサッカーにのめり込んでいたのが、嬉しかったのであろう。隣県で開催されるJリーグのチケットを、父親が買ってくれていた。
これは素直に嬉しかった。
実は今世でもJリーグの試合を、生で観戦したかったのだ。
やはりサッカー観戦は生に限る。今度の週末が本当に楽しみだ。
それにしても、サッカー観戦をしている間も、何かトレーニングできないかな?
スタジアムにはサッカーボールを、基本的に持ち込めない。それならサッカー観戦しながらでも出来る、トレーニングを何か考えよう。
そうだ。
裸足で足の感覚を鍛えながら、サッカービジョンで目のトレーニングをしてみよう。
それなら一石二鳥で試合観戦ができる。
「アオイも、サッカー見に行きたい!」
「よし。それならママも誘って、四人で行こう!」
こうして週末の都合が合う時。家族4人でのサッカー観戦が多くなった。
両親はサッカー経験がない素人。
だがスタジアムの生の臨場感に、いつも感動していた。
こんな感じで我が家がサッカーに染まっていく。
オレが幼稚園のころの家族旅行は、国内のサッカースタジアムが定番となっていた。
家族四人で全国各地にサッカー観戦に行くのだ。
もちろんサッカー旅行では、経済的な負担も多い。
自分の父は普通のサラリーマンで、母親は昼間のパートタイマーである。決して金持ちではない。
だが幼稚園時代のオレは、ゲームやおもちゃを一切欲しがらなかった。お菓子やジュースも、一切欲しがらなかった。
いつのまにか妹の葵(あおい)も、それを真似してきた。サッカー以外の物を、一切欲しがらないのだ。
そのお陰もあり、両親には無駄なお金の支出が無い。その浮いたお金で、年に何回はサッカー観戦に行くことが出来たのだ。
他の同年代の子どもたちが、遊園地やショッピングモールに行っている時期。オレはひたすらサッカー漬けの毎日を、こうして過ごしていた。
1日は24時間しかない。
その内で夜+昼寝の睡眠をオレは、成長ホルモンを促すため必ず十時間をキープ。
食事やお風呂、幼稚園通園で一日二時間はとられる。
つまり残りの12時間を、オレは次のサッカーの練習に当てていた。
①スポーツビジョンと判断力のトレーニング
②ボールは裸足での足ワザとドリブル、フェイント、リフティングを中心に。
③強いシュート練習やランニングはしない。
④足のステップ練習と柔軟とストレッチは入念に。
⑤サッカー観戦や車移動中も足のトレーニングと、意識のトレーニング。
幼稚園に入学した頃に、サッカーボールを買って貰った日からスタート。
幼稚園の卒業までの三年間。
オレは正月やお盆も関係なく、このトレーニングを毎日続けていく。
単純な時間に計算して『一日12時間×365日×3年間=約15万時間』だ。
この日々を苦しいと思ったことは、一度もない。
本当に楽しい毎日であった。
◇
こうして3年間の幼稚園の時期が終わる。
小学校に入学する年齢となった。
オレはいよいよサッカーチームに入れる歳になったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!