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第5話:【閑話】:幼稚園の先生の話
《幼稚園の先生の話》
えっ? 『野呂コウタ君の話を聞きたい』……ですか?
はい、大丈夫です。
私はこの幼稚園で三年間、コウタ君の担任でした。
今思い出してもコウタ君は、本当に目立つ子でした。
入園当初は普通の子の印象でした。
でも、すぐに……あれはサッカー教室のくらいから、組でも目立つようなりました。
コウタ君は、少し大人っぽいところが、あったからでしょうか。子どもたちの中でリーダーになって、率先して遊んでいました。
特に大ホールや園庭で遊ぶ時は、誰よりも元気に遊んでいました。大人数で遊びながら、大きな声で他の子たちに気をかけていました。
歳上のクラスの子に対しても同じです。入園して半年くらいで、幼稚園のリーダーになっていました。
昔で言う番長みたい感じですか? それは言いすぎですが、本当に元気で積極的な子でした。
そう言えばコウタ君のことで、少し心配なことが以前ありました。
それはコウタ君がいつも足に、怪我をしていたこと。すり傷や打撲の跡が、常に絶えなかったのです。
本人に聞いても『家の隣の空き地で遊んでいて転んだ』と答えてきました。
でも、あんな毎日にように、新しい傷を作る子は今までいません。
『もしかしたら家で、虐待を受けているのではないか?』
幼稚園の職員会議で、他の先生からそんな心配もありました。でもコウタ君の両親は、そんなことをするようには見えません。
だから担任である私は、こっそり見に行くことにしました。降園バスでコウタ君が帰宅した後に。コウタ君の家の近くまで。
もちろん偶然を装ってです。
私はそこで、驚愕の光景を目にしました。
コウタ君はたしかに彼の家の隣の空き地で、一人で遊んでいました。
サッカーで遊んでいました。
でも時間の長さが問題なのです。
降園した午後の三時から、暗くなる夕方の五時まで。あの子はノンストップで、ずっとサッカーボールで遊んでいたのです。
すごい集中力でした。
ボコボコの草むらの空き地に、空き缶を並べて。そこを何度もボールを蹴って、ずっと遊んでいました。
しかも裸足でした。
何度も転びながら、何度も起き上がって、同じところを回って練習していました。
私はサッカーをあまり詳しくありません。でも、二時間もあそこまで集中することは、凄すぎると思いました。
そして驚いたことに、コウタ君は本当に楽しそうでした。転んでも、息を切らしても、汗を流して笑顔で遊んでいました。
いつもの幼稚園の大人ぶった顔とは違い、無邪気な子供の笑顔。
その光景に私も思わず二時間、ずっと見とれてしました。
えーと、何の話をしていたんでしたっけ?
そう、野呂コウタ君の幼稚園時代の話ですよね。
コウタ君は本当に元気で目立つ子でした。
卒園してしまって、私も少し寂しい時もありました。
でも大丈夫です。
だってコウタ君の活躍は大きくなってからも、色んな紙面で見ることが出来たからです。
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