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第8話:2年生。運命の出会い
オレは小学2年生になった。
2年生になったからといって、特に変わったことはない。
相変わらずサッカー漬けの毎日である。
「行ってきます!」
「待って、お兄ちゃん! アオイも行く!」
そうだ。一つ変わったことがある。
それは一歳年下の妹の葵(あおい)も、小学校に通い始めたことだ。
同じ小学校なので通学も、自然と一緒に行くことになる。まだ一年生なので、車とか心配だ。
葵に合わせて、オレもゆっくり歩いた方がいいのかもしれない。
「アオイも、お兄ちゃんと同じ速さで歩く! 大丈夫!」
だが葵(あおい)は元気であった。
トレーニング速度で通学するオレと、同じ速さで登校できた。
妹も幼い頃から、オレと一緒にサッカーの練習をしていた。もしかしたら、そのお陰もあり知らないうちに、体力が付いていたのかもしれない。
「お兄ちゃん。学校に行く道は、冒険みたいで楽しいね!」
「そうだな。冒険&トレーニングだな」
葵の頑張りのお蔭で、オレの登校時間のサッカートレーニングを継続できた。有りがたいことである。
それに葵(あおい)も少し経ったら、友達と登校するであろう。そうなったオレは更に厳しい、登下校時間のトレーニングをするつもりだ。
◇
「コータ。来週からお前は4年生の選手コースにいけ」
そういえば2年生になって、変わったことがもう一つある。
それはコーチから、上のクラスに行くことを命じられたことだ。
「ボクはまだ2年生ですが、いいんですか、コーチ?」
「ああ、お前の両親の承諾もある。それに、もうスクールの3年生では、お前の相手にならない。上で期待しているぞ」
「あっ、はい……?」
そんな感じで訳も分からずに、オレは選手コースに昇格することになった。
基本的に選手コースは4年~6年生までしかいない。
オレはまだ2年生になったばかり。本当に大丈夫なのか? 不安しかない。
「お兄ちゃん、頑張って! お兄ちゃんなら大丈夫! アオイもスクールコースで頑張るから!」
そういえば前と変わったことが、更にもう一つ。
葵(あおい)も同じサッカーチームに通うことになったのだ。
妹はまだ1年生だから、去年のオレと同じスクールコースからの開始となる。
女の子はチームに少ないから、同級生の1年生の男の子と混じって練習していた。
葵(あおい)は女の子だから大丈夫かな。
少し心配である。転んで怪我しないか心配だ。
「お兄ちゃんに比べたら、みんな下手だから大丈夫だよ! アオイが一番上手いよ!」
「そうなのか、葵?」
そう言えば幼稚園の年少組の時に比べて、妹はだいぶサッカーが上達していた。
最近ではオレとの自主練でも、だいぶ集中力が続いている。家の練習部屋でも、いつも足技を一緒に練習していた。
それに公園での葵との1対1の練習。最近ではオレも気が抜けない鋭さになっていた。
スピードが速い葵(あおい)は、目を離すと一瞬でオレからボールを奪っていくのだ。
もしかしたらオレの妹は1年生の中でも、けっこう上手い方なのかもしれない。
◇
「さて、オレも妹に負けないように、頑張らないとな」
今日からコーチの指示通りに、オレは4年生選手コースでの練習に参加する。
これまでは在籍していたのは、1年から3年生までのスクールコース。いわゆる遊びのコースだった。
だが今度からは4年生から6年生までの選手コース。
このチームの小学生年代の代表チーム。本気でサッカーで勝ちたい人のためのガチなコースだ。
選手コースか……。
うーん、いよいよか。名前を聞いただけでも緊張してきた。
「2年生の野呂コウタです。皆さん、よろしくお願いします」
練習前に4年生の前で、ペコリと挨拶をする。
何度も言うが、小学生の時期の年齢の差はかなり大きい。一番年下のオレは、低姿勢でいくしかないのだ。
「おい、あいつが噂の……」
「ああ。飛び級できたらしいぞ……」
「あんなにチビなのに、ヤバイらしいぞ……」
4年生たちは何かざわざわしていた。オレの全身を舐めるように観察さしてきた。
この選手コースには知った顔は、ほどんといない。
なんかドキドキ緊張してくる。
「よし、挨拶も終わったところで、練習開始だ。地区大会まで時間がない。気合いを入れろ!」
「「「はい!」」」
選手コースのコーチの合図で、練習が始まる。
4年生たちは気合の返事。オレも負けずに声を出す。
◇
選手コースの練習が始まる。
練習時間はスクールコースと同じ、放課後の2時間が基本。
「うわ……4年生の人たち、気合入っているな……」
だが内容の濃さがスクールコースとは、まったくの別ものであった。子どもたちの気合いが凄いのだ。
ちなみにスクールコースには、遊びで入会して子供もけっこういる。
運動不足の解消や、習いことの一環として、そんな感じで親に言われて、仕方がなく通っている子もいた。
だが選手コースは違っていた。
「オレは将来、Jリーガーになる!」
「それならオレは日本代表になる!」
全員がそんな感じ、本気でプロサッカー選手を目指していたのだ。
4年生は今のとこと全部で18人。現実的な話、その中でプロになれる者は、一人もいないかもしれない。
だが全員が本気で夢を見て、全力でサッカーに打ち込んでいるのだ。
「やばい……みんな、凄い、上手い! そして楽しい!」
選手コースの練習が続いていく。
練習しながら、オレは思わず声をもらす。
はっきりといって4年生の人たちは上手かった。
『敵に勝ちたい! ライバルよりも上手くなりたい!』……そんな感じの執念が、今までとは違うのだ。
2歳も下のオレが、そんな厳しい環境の中で練習するのは大変だった。
年齢による体格差や足の長さ。根本的な体力が全然違う。
「くそ……体格差で負ける相手には……よし、相手の死角に入るようにして……」
だがオレも負けてはいなかった。
大変だからこそ、自分が成長していくのが実感できるのだ。
「よし。明日のミニゲームでは絶対に抜くぞ……」
選手コースに昇格したての頃。オレはダメだったこともある。でも次回では、オレは自主練で修正していく。
相手は2才も歳上の4年生。だが気持ちではオレも負けない。
『足の長さで負けるのなら、スタートの一歩を早くする』
『体格さで負けるのなら、テクニックを磨いていく』
『体力で負けるのなら、頭を使って勝負する』
毎日の練習が本番の試合のように、全力で練習に望んでいく。
本気の4年生に失礼がないように、オレも全身全霊で練習にうちこむ。
「あの4年生に勝つには、もっとこう……それに、あの時のプレイは……」
そんな感じで必死に過ごしていく。
4年生との練習と、一人での自主練習の繰り返しの毎日。
気が付くとあっとう間、月日が経っていた。
いつの間にかオレが2年生になって、4ケ月が経っていた。
◇
「えー、お前たちに新メンバーを紹介する。夏休みの間だけの短期期間だが、今日から選手コース4年と練習する」
夏休みに入った8月のある日。新しいメンバーがやってきた。
オレの時と同じ様に、コーチが練習前に紹介してくる。
「オレ様は澤村ヒョウマ。2年生だ。将来の日本代表の10番。以上だ」
新メンバーがコーチの隣で自己紹介してきた。何とオレと同じ2年生で、飛び級での昇格だった。
でもオレとは逆の太々しい態度。はっきりいって、かなり上からの目線である。
うわー、ヤバイなこの状況は……。
これには4年生も方々も激怒であろう。
「おい澤村って……?」
「ああ。あの澤村選手の……」
「まさか、このチームに入ってくるとはな……」
だが4年生はざわざわしていた。
怒るどころか、どこか奇異の目で新メンバーを見ていた。
それにしても“澤村ヒョウマ”?
オレもどこかで聞いた名前。前世の時に、聞いたことがある名前だ。
でも記憶が混乱して、どうしても思い出せない。
「あのー、先輩、澤村って……?」
仕方がないので、隣の先輩に聞くことにした。
この様子なら、何か知っているのであろう。
「コータ、お前知らないのか? アイツの父親は有名な元Jリーガーの澤村選手……その息子だぞ」
なるほど、そうか……そういうことか。
澤村選手のことは、もちろんオレも知っている。
前世ではサッカーオタクだった知識は伊達じゃない。
そして記憶が混乱した原因が分かった。
“澤村ヒョウマ”
その名は前世でも、オレは聞いていた。
何とこの選手は将来的には、プロのサッカー選手になるのだ。
圧倒的なテクニックで、将来を有望された選手だった。
だが不幸な怪我に泣かされて、最終的にはJ2止まりだと記憶している。
(でも、澤村ヒョウマ選手……この街の出身じゃないよな?)
有名な選手の出身地くらいは、オレは記憶していた。だから先ほどは誤差に混乱したのだ。
澤村ヒョウマ選手がこのチームに入ったのは、夏休みだけの一次的なものなのか?
それなら前世の選手記録にも、載ってないのは理解できる。
そう言えば、コーチが最初に『夏休みの間だけの短期期間』だけと言っていた。
つまりこの澤村ヒョウマ選手とは、短い期間だけのチームメイトなのだ。
(でも、これは朗報だぞ!)
オレは心の中で、思わずガッツポーズする。
何故なら“プロのサッカー選手になる確定の人”が、目の前にいるのだ。しかも同じチームの中に。
(これでオレの将来を計れるかも……)
今のところオレのサッカー選手としての、才能は未知数である。
だが、この澤村ヒョウマが今度から、才能を測る指針になってくれるであろう。
夏休みの間。この男に追いつくことが出来たなら、オレにも可能性がある。将来的にプロサッカーになる可能性があるのだ。
まさかのゲリライベントの発声に、オレのモチベーションは爆上りである。
「おい、そこのチビ。なに見てるんだ?」
「ううん。何でもないよ。ボクの名前は野呂コウタです」
チビとはオレのことだろう。確かにオレの方が少しだけ、身長が小さい。
相手はかなり不遜な態度だが、オレは全く気にしてはいない。
「同じ2年同士、よろしくね、ヒョウマ君!」
何故なら今のオレは、最高に興奮していたからだ。
澤村ヒョウマという逸材を目の間にして、これまで以上にサッカーを頑張れそうだ。
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