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「理由不明の突然の内出血は、血小板異常の可能性がある。腕だけならまだしも、最悪、脳出血も起こり得る。妻がそうだった」  主任は、持っていたメモに何やら書きつけると、ピッと俺に手渡した。 「当時世話になった血液内科だ。今から行ってこい」  主任に押し切られる形で、俺は病院に行くことになった。  下りエレベータには、先客が一人いた。会社に出入りする、顔見知りの若い保険レディだ。 「木村(きむら)さん、おはよ」 「おはようございます! 西川さん」  彼女の笑顔が輝く。これにつられて、俺を含む男性社員が何人契約書に判を押したことか。 「この時間に会うなんて珍しいですね」 「これから通院で」 「加入保険の適用確認しますから、何かあったら遠慮なく仰ってください」  木村さんが真剣な顔で申し出る。営業の鑑だ。 「じゃあその抱えてるチラシ、貰えない?」  またですか? と一転して半ば呆れ顔の彼女を「お願い!」と拝む。  俺の目当ては、木村さんが厚生フロアで配るチラシ付属の飴だ。以前はスルーだったが、巷では見かけない、腹持ちも味も良い品に変更になってからは、頻繁に飴、もといチラシを貰っている。 「ちゃんと周りに宣伝してくださいよ?」  木村さんは一応釘を刺すと、チラシにホチキス留めされていた飴を、二個外して渡してくれた。  深い青色の、どこかクセになる味の飴。商品名は不明。 「ねえ、今度この飴の名前教えてよ。そしたら店で探すから」 「それ、私も知らないんです。次回までに調べておきます」  エレベータが一階についた。ロビーで木村さんと別れた俺は、歩きながら貰った飴を早速一つ口に放り込むと、病院へ向かった。
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