鳩の巣王子

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 占い小屋は古びた小さな建物でした。中に入ると乾燥した薬草を混ぜ合わせたような香りが漂い、テーブルに置かれた大きな水晶玉には蝋燭の灯りが映って揺らめいていました。  水晶玉の向こう側には、緑色のフード付きローブを身にまとった人物がいました。恐らく占い師なのでしょう。独特な雰囲気の部屋に圧倒されている王子に、占い師が言いました。 「こちらにいらっしゃるのは初めてですね? 私は占い師のトトコと申します」  トトコが水晶玉に手をかざすと、透き通った水晶玉の中にぼんやりとした靄のようなものが現れ始めました。こちらが何も言っていないのにもう占いが始まるのかと王子が身を硬くしていると、トトコが厳かな声で告げました。 「あなた、お腹が減っていますね」 「へ?」  王子が声を上げるとトトコが水晶玉越しに怪訝そうな表情をしました。女装していることをすっかり忘れていた王子がいつもの声を出してしまったからでしょう。王子は慌てふためきましたが、トトコは何ごともなかったように水晶玉に視線を戻しました。 「ここはどんな悩みも解決する占い小屋です。ですが、人間お腹が空いているとろくなことを考えません。お腹が減っている方にはまずはお食事をしていただきます」  呆気に取られている王子をよそに、トトコは立ちあがると「私についてきてください」と言いました。王子が慌てて後を追うと、トトコはカーテンの向こうに消えました。  王子がカーテンをめくると、そこには暖炉に温かな火が燃えるダイニングがありました。薬草の香りはなくなり、おいしそうな匂いが漂っています。 「はい、じゃあ手を洗ってきてくださいね。食事の用意をしますから」
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