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トトコはいつの間にか占い師のローブを脱いでエプロン姿で立っていました。王子は何が起きているのか分からず呆然としていましたが、言われるがまま手を洗いに行きました。
王子が戻るとテーブルの上には温かなビーフシチューと焼き立てのパン、そして大きくカットされたアップルパイが用意されていました。おいしそうな匂いと見た目にたまらなくなり、王子はここが占い師の小屋であることも忘れて夢中で食べました。
食後のコーヒーを一緒に飲みながら、トトコが「さて、あなたは何を悩んでいるのですか?」と聞きました。水晶玉のある部屋に戻らなくていいのかと思いましたが、王子は香りのいいコーヒーを一口すすると口を開きました。
「ええとですね……鳩の巣を探しています」
「鳩の巣」
トトコは慎重にオウム返しをしました。鳩の巣は何かを象徴しているのではないかと思案顔です。
「あ、あの、鳩です、鳩。歩くときに首を前後に動かして、ポッポーと鳴く鳥の鳩です。鳩が飛ぶ様子はよく見るのですが、巣を見たことがないので一度見てみたいと思いまして……」
「そうですか……」
トトコは腕を組んでしばらく考えていましたが、やがて部屋の奥に向かって「ハル」と呼びかけました。部屋の奥から小さな鈴の音がしたかと思うと、一匹の黒猫が現れてトトコの膝の上に飛び乗りました。トトコが黒猫のあごの下を撫でると、黒猫は気持ちよさそうな声を出しました。
「この子は黒猫のハル。ハルをあなたの水先案内人にしましょう。不思議な力を持っている猫なので、きっとあなたの望みを叶えてくれますよ」
黒猫のハルはトトコの膝の上からするりと降りると数歩歩き、立ち止まって王子の顔を見ました。その顔はまるで「私についてきなさい」と言っているようでした。
王子はハルの後について占い小屋を出ました。もしも本当に鳩の巣を見つけたら黒猫が鳩を襲わないか心配でしたが、ハルの歩く姿は凛として聡明さを感じさせたので信用してついていくことにしました。
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