鳩の巣王子

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「足を痛めてしまって。沢の水で冷やしたのでだいぶ良くなったと思います」  女性は片方の靴を脱ぎ、足を水に浸していました。靴も王子が履いているようなハイヒールではなく、動きやすそうな紐靴です。姫らしい服装ではありません。  先ほどロボットが「姫様」と言っていたのは聞き間違えだったのだろうかと考えているうちに、はたと気づきました。  隣国は科学技術が非常に発達していて、王族は従者としてロボットを連れているはずです。 「あなたはもしかして、リコ姫ではありませんか?」  女性は弾かれたように顔を上げました。「親が決めた相手と結婚したくない」と言って逃げ出した隣国の姫は、今まさに目の前にいる女性だったのです。 「あなたは誰なのですか?」  王子はかぶっていた長髪の鬘を取りました。化粧も女商人の服もそのままなのでちぐはぐに見えるだろうと思いましたが、リコ姫の前にひざまずくと胸に手を当てました。 「私は山の城の王子、キミドリです」  それを聞いたリコ姫は大きく目を開きました。 「あなたが? 一体どうしてそんな格好をしているの?」 「いろいろと事情がありまして。あなたこそどうして逃げ出したのですか?」  リコ姫は王子から目をそらすと、森の方へ目をやりました。そこではいつの間に意気投合したのか、黒猫とロボットが何やら楽しそうに遊んでいました。 「顔も見たことのない人と結婚したくないと思ったんです。自分の結婚相手くらい自分で決めたいと」  顔も見たことのないのは王子も同じでした。今日初めてリコ姫の顔を見ました。好奇心の強そうな瞳。ドレスを脱ぎ捨てて動きやすい格好で城を飛び出してしまう行動力。王子は初めて会ったリコ姫にすっかり心を奪われていました。
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