鳩の巣王子

1/9
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 王国の城は山の上にありました。山の城に住む王子は、物憂げな表情で窓の外を眺めておりました。少し癖のある髪と冷涼な瞳が美しい王子の姿を年頃の娘が一目見ると恋に落ちてしまうので、王子は城の一番奥にある部屋に閉じ込められていました。  窓の外を一羽の鳩が飛んでいきました。王子は飛んでいく鳩を目で追いながら言いました。 「ねえ、鳩の巣って一体どこにあるんだろう」  王子の言葉は独り言ではありません。教育係としてずっと王子に仕えているサンゴ大臣に向けられたものでした。 「王子、『鳩の巣』と簡単におっしゃいますが、まず鳩は世界に約42属290種おりまして」 「……サンゴ、君が詳しいのはダチョウだけじゃなかったんだね」 「まあ、この窓の外を飛んでいったのは恐らくキジバトでしょう。鳩は自分の卵を守るために高いところに巣作りしますから、木の上にあると思いますが」 「見てみたいな」 「駄目です」  サンゴ大臣は即答しました。 「王子、あなたが今やるべきことは鳩の巣探しではなくお妃探しです」  王子は生まれたときから隣国の王女と結婚することが決まっていました。隣国と同盟関係を結ぶために必要なことだと幼い頃から言い聞かされて育ちました。ところが、隣国の王女が「親が決めた相手と結婚したくない」と言って逃げ出してしまったのです。  隣国からは急遽良家の子女が何人も選び出され、王子のお妃に選ばれるのを今か今かと待っております。ところが王子は逃げ出してしまった王女が羨ましくなり、お妃選びを放棄しておりました。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!