パン屋はいつの間にか中心になっていた

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そう言うとノアが優しく頭を撫でてくれた。 「言えなかったんでしょ?もうマリーが守護者って言われてたし、こうやって妖精が見えてない人からすれば本当に見えているのか疑わしい事だから。守護者って偽った人は罰せられるし」 ジャックのお姉さんの事を考えてグッと胸が詰まる。 何も言えなくなっていると部屋がノックされた。 「ノア、セシリアさんの様子を見に来てる?」 扉の向こうから声をかけてきたのは、第一王子のアッシュ様。 ノアは私から離れると扉へ向かった。 扉を開けて入ってきたのはアッシュ様とニクス様、そして妹のメアリー様だった。 私に気づくとメアリー様が嬉しそうに駆け寄ってきた。 「セシリアさま、おきてるー!」 「ご心配おかけして申し訳ありません。たった今起きました」 「だいじょーぶ?」 「はい」 小さなメアリー様の頭を撫でるノア。 メアリー様は近くの妖精達の小さな手を握った。 「兄さん達、そんな毎日お見舞いに来なくていいって」 「セシリアさんは大事な守護者だし、これだけ目を覚まさないと心配にもなるよ。それにノアの大事な人なんだし、俺達の家族になる人。そんな人の様子を見に来るのはおかしなことではないよ。それにノアも、看病で毎日疲れてるし」 ノアは困ったように笑うと私の頭を撫でた。 「さっき起きたばかりだから、もう少しセシリアを休ませてあげたいんだ。守護者の仕事は女神様がまだ大丈夫って言ってくれてるし」 「そうだね。ノアも今日は休んで」 アッシュ様はそう言って優しく微笑むと私に花束を差し出した。 「これ、お見舞いの花だよ。綺麗なセシリアさんの隣だと、霞んじゃうかもしれないけど」 そういえば、こういった歯の浮くようなセリフを簡単に言うような人だったな。 花を受け取ってお礼を言うとノアがため息をついた。 「まだ体調が万全じゃないんだから、セシリアの事休ませて」 ノアはアッシュ様達を部屋から出すと息をついてベッドの淵に座った。 「本当に、あの人たちは」 「私の事心配してくれるなんて優しいね」 「仕事あるはずなのに……。あれ、多分サボりたいから来ただけだよ」 「そんな事ないよ」 アッシュ様からいただいた花を私から奪うと近くのテーブルに置いた。 「セシリアのパンを楽しみに待ってる人達がいる」 「え?」 「俺に聞いてくるんだ。『セシリアちゃんはいつパン屋を開いてくれるの?』って。少し体調を崩してる事は伝えたんだけど、皆凄く残念そうだった」 「そうなんだ……」 「正直、セシリアはこれから守護者の仕事をしないといけない。その上で勉強や管理者としての仕事をするわけだから、パン屋を開ける時間があるかどうかなんだ」 「……」 「セシリアがパン屋を大事にしてる事は知ってる。俺は、何よりもその気持ちを尊重したいと思ってる」 ノアの手が私の手を握る。 そして真っ直ぐ目を見つめた。 「この間みたいに無理は絶対にさせない。だから女神様に相談した」 「女神様に?」 「守護者の仕事は出来る時でいい。祈りも大丈夫って言ってた。今はジェンキンスとも友好的だし、結界も自分で張れるように力を取り戻したって。管理者の仕事って言っても今までと同じで大丈夫って」 「それ……もはや何もしなくていいって言われてない?」 「そうかも。でも、だからこそパン屋を開ける」 ふわっと微笑むノア。 私は目を見開いてから笑って頷いた。 ・
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