転生したらパン屋でした

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ここは一年中綺麗な花が咲き誇る国、ガルシア王国。 国を治める国王様と、国を守る騎士団によって平和が保たれている。 国民が不満を持たない、とても良い国。 そんな国で、私 セシリア・ベネットは今日もパンを売っている。 「あんぱん焼きたてだよー!早い者勝ちー!」 「今日も元気だねー、セシリアちゃん」 「あ、おばあさん!今日も来てくれたんだ!」 「もちろんさ。一日一回はセシリアちゃんの元気な声を聞かないとね。それに、ここのパンは美味しいから毎日でも食べたいのさ」 「ありがとう、おばあさん!」 「セシリアちゃんのパン屋は珍しいパンばかりで楽しいよ。それもどれも美味しくてね。何度でも食べたくなるんだよ。特にあんぱんなんて初めて食べたけど、美味しくて何個でもいけちゃうよ」 おばあさんはそう言って焼きたてのあんぱんを一つ取った。 あんぱんなんて、珍しいパンでもないんだけどな。 そう思うのは私が『この国の人間』ではないからだろう。 いや、まあこの国の人間ではあるんだけど。 私がこの国の人間でないと言う理由は、私が『転生者』であるからだ。 実は私はただの女子高生だった。 それが、登校中に交通事故に遭ってしまい帰らぬ人になったのだ。 そして気が付けば私はこの国でパンを売っていた。 転生した時に前世の記憶はあったし、何ならこの世界が何の世界なのかもわかっていた。 ここは私が大好きだった乙女ゲームの世界。 妖精が国を繁栄させている、妖精に愛された国。 どうしてそれが分かったのか。 だって、私には妖精が見えているからだ。 基本的に妖精は人には見えない。 だけど、特定の『妖精に認められた人物』には見えるのだ。 その人は国では『守護者』と呼ばれる。 そう、この世界の主人公も『守護者』だったから。 最初は主人公に転生したのかと思って興奮したけど、すぐに自分が主人公ではない事に気が付いた。 だって主人公、パン屋じゃないし。 鏡で自分を見れば全然違うし。 私は大好きな乙女ゲームの世界で、モブキャラとして転生したようだ。 別にショックではなかった。 だって、これってイベントを間近で見られるって事でしょ? 自分が主人公であれば特定の人とのエンドしか見れないし、何より『ヒロインと攻略対象の二人』を同時に見れない事になる。 そんなの絶対に嫌だ。 スチルというのは見て興奮するものなのだ。 自分がスチルになっていても見れないじゃないか。 神様って本当にいるんだなと感謝した。 ・
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