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だけど、どうしてモブキャラである私に妖精が見えているのかは謎なのだ。
ゲームでは主人公にしか妖精は見えていなかった。
だから国から大事にされている。
それなのに……。
『もっと火力を上げないと、美味しいパンを焼けないわ!』
『セシリア!こっちのパンが焼きあがるよ!』
『セシリア、次はどんなパンを作るのかな?』
なんで妖精、私と仲良くしてんの?
本当なら妖精が見えている事は王国に知らせないといけない決まりだ。
でも主人公でもない私が名乗り出ていいわけない。
そもそも私が主人公になってしまう恐れがある。
それは私が愛したこの世界ではない。
パン屋と攻略対象が結ばれるとか、意味がわからん!!
主人公、もしかして妖精が見えない設定になってるのでは……とか不安になったけど、それは大丈夫だった。
主人公は無事に『守護者』として国民から崇められたからだ。
確かゲームでは『妖精に認められる事は珍しい事で、100年に一度しか妖精は特別な一人にしか姿を見せない』という設定だったはず。
そう、『一人』のはずなのに……。
「なんでだ」
『何が?セシリア』
『それより早くパンを並べてよ』
『僕らがパンを焼いてセシリアが売るって約束でしょ?』
妖精と一緒にパン屋経営してるってなんだ、このモブキャラ。
こんな人がゲーム上に居た事に驚きだわ。
『そういえばセシリア、聞いた?』
パンを並べていると耳元で妖精が話し出した。
『敵国のジェンキンスが守護者を連れ去って妖精を自分の国に引き入れようとしてるって。私達は守護者に力を与えるために存在してるから、そうなったら嫌でもジェンキンスに行かないと……。私はこの国が好きだから、セシリアは絶対にジェンキンスに行くなんて言わないでね?』
「そもそも私、守護者じゃないし」
『何言ってるの?セシリアは立派な守護者よ』
いや、守護者は主人公だけのはずだ。
勝手に守護者にしないでもらいたい。
「守護者はマリー様でしょ?私はただのパン屋」
『確かにマリーは守護者よ。でもセシリアだって守護者じゃない。私はマリーよりセシリアの方が守護者の力が強いと思ってる』
私の知ってる設定はどこへ行ったんだ。
私はため息をついた。
私の知ってる設定が間違っているわけじゃない。
現にこの国では守護者は一人。
今までだってずっとそうだったと聞いている。
もしかして、私が転生したから内容が少し変わったとか……?
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