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考えたって現状が変わるなんて思ってない。
でも気を付けないと。
妖精が見える事がバレたら、私はそれを隠して生活していた事を罪に問われる。
それに、もしかしたら『嘘つき』呼ばわりされるかも。
だって守護者は一人なのだから。
今日もパンを売り切って店を閉める。
平和な日常が続いていくな。
何かイベント起きないかな、なんて考えて、イベントって基本的に街じゃない所で起きていたな、と思い出す。
マリーちゃんが一体誰を相手に選んだのか気になるな。
そんな事を考えていると……
「すみません」
後ろから声をかけられた。
「はい?」
振り返ると、フードを被った男の子が二人立っていた。
そこはかとなく感じるイケメンの雰囲気。
二人とも綺麗な顔してるな。
「街で噂になっているパン屋と言うのはここですか?」
「え?噂になってるのかどうかは知りませんけど……。街のパン屋はウチだけだと思います」
「そうですか。あの、よろしければ一つパンを買わせていただけませんか?」
「ごめんなさい。今日の分はもう売り切れてしまって……」
「そうなんですか……」
残念そうに落ち込む男の子。
なんだろう、この声どこかで聞いた覚えがあるんだけど。
なんだか可哀想に思えてきて私は近くの妖精に目配せした。
私の言いたい事が分かったのか妖精はパンを作り始めた。
「あの、少しだけ待ってもらえませんか?」
「え?」
「今から作りますから」
「そ、そこまでしていただかなくても!」
「せっかくウチのパンを買いに来てくれたのに何もない状態で帰すなんて失礼ですから。店内で少しだけ待っててください」
二人を店内に案内して厨房へ行く。
妖精達はパン生地をこねていた。
『どうして追い返さなかったの?』
「どうしてだろう……。なんか、本当に楽しみにして買いに来てくれたんだなって思って」
『いかにも怪しいよ、あの二人。もしかしてジェンキンスのスパイなんじゃない?』
「まさか。だとしたら堂々としすぎだと思うけど」
それにスパイは違う人って分かってるし。
焼きあがったパンを袋で包んで二人に手渡す。
「お待たせしました。最近売り始めたあんぱんです」
「あんぱん……?」
「凄く遠い国から教えてもらった『あんこ』というものを生地に包んであります。甘くておいしいんですよ」
二人はしばらくパンを見つめて、そして食べた。
「おいしい……」
「ありがとうございます」
「何個でも食べられそうな気がする」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
ニコッと笑うと男の子の一人が立ち上がってフードを取った。
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