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その姿に驚いて固まってしまう。
だって、こんなのあり得ない。
ゲームの中ではこんな事、起きてない。
そう私が考えるのは、目の前にいる人物がゲームの攻略対象である『ノア・ガルシア』だからだ。
このガルシア王国の第三王子で、自由で国民とも仲良しで、とにかく明るくて人気のあった王子様。
私の最推しの攻略対象だ。
何度も何度もプレイした。
マリーちゃんとノア様のベストエンドは号泣必須の話で、何度もノア様に『君が守護者で良かった』と囁かれて脳死したものだ。
だけど、なんで?
どうして街のパン屋にノア様が!?
驚いていると、もう一人もフードを取った。
その人もゲームの攻略対象で、名前を『ルーカス・ウォーカー』。
ノア様の親友で第一騎士団団長、クールなイケメンで、甘い物が好きだというギャップに世の女の子達は悶え苦しめられていた。
ノア様の警護もしているルーカスが一緒なのは容易に想像がついた。
ていうか、ゲームのイケメンが目の前に二人も存在している。
これって何?
この世界は私を殺しにかかっている?
「初めまして、俺はノア・ガルシア。突然押しかけて申し訳なかった。街で噂になっているパン屋がどんな所なのか気になって来てみたんだ。大正解だった」
「え……は……?」
「凄く美味しいパンだったよ。食べさせてくれて本当にありがとう」
推しの笑顔が眩しい……っ!!
そして声がとにかく良すぎて死んでしまう……っ!!
『ちょっとセシリア、固まったままじゃ失礼よ』
『王子様に挨拶しないと』
耳元で妖精にそう言われてハッとする。
それから私は二人に頭を下げた。
「ももも、申し遅れました!私、セシリア・ベネットと申します!王子様に粗末なものを食べさせてしまい、大変申し訳ございませんでした!!」
「いや、無理を言ったのは俺だ。それに、とても美味しかった。セシリアさえ良ければ、また買いに来てもいいかな?」
「え!?私が作るパンより、お城で作られるものの方が絶対に美味しいですよ!?」
「そんな事ないよ。俺はセシリアの作るパンが気に入った。だから絶対にまた来るから」
ノア様は明るく微笑むとルーカスの方を見た。
ルーカスは私に近づくと小袋を渡した。
「こちらはお礼でございます。お受け取りください」
ずっしりとした重みがある袋。
開けなくても分かる。
めっちゃ大金入ってる……。
「い、いただけません!!」
「何故です?」
「だ、だって……」
口ごもっているとルーカスがため息をついた。
「……素直に受け取ればいいものを」
「え」
「ノアが王子だって知ってるのにノアに媚びようとしない、しかも大金も受け取らない。変な女だな、アンタ」
ルーカスはそう言うとフッと笑った。
あ、私の事信用してくれた。
ルーカスは信用した人にしか笑顔を見せない。
それがまた心臓に突き刺さるというのに。
「あはは。本当に、不思議な人だな」
でも推しの笑顔がとても尊い。
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