(零)ー1

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(零)ー1

(零) 「ああああああああぁぁぁ!!」  夜の街に佇むビルの間に男の声が消えていく。耳を澄ませ、最期の最後までその音を聞く。 (ああ、堪らねえ)  その妖怪は興奮して口端が上がる。思い出されるのは、男が落ちる前の絶望的な表情。あの男は自分の恋人を刺した。そう仕向けたのは紛れもなくこの妖怪。そして刺すに至る原因を操ったのもこの妖怪。真実を知った男はさらに絶望を感じ、足を滑らせて勝手に落ちた。  初めてなんかじゃない。もう何百と回数を重ねてきた。面倒に見えるが、慣れたもの。最後に聞く声はこの妖怪にはご褒美だ。これを聞くためにやっている。よく暇かと聞かれるが心外だ。自分の楽しみに全力で何が悪い。 「あー。楽しかった」  大満足の一日を終え、妖怪はしっぽを揺らし、足取り軽く、静かに闇へ消えていった。
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