(六)ー1

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(六)ー1

(六)  その頃、突然動きが止まった女郎蜘蛛の上で、壱誓と太陽は立ち上がり、前を見た。一火の姿をした妖怪も立て直し、動きが止まった女郎蜘蛛に困惑している。 「くそッ。暴れすぎてあいつらのいるとこまで来ちゃったってワケ!?ダルすぎデショ!」  変身はそのままに。だけど口調と声を変えていないあたり、姿だけ一火になっていたようだ。あれだけ攻撃しても変身の術を解かないのはある種執念のように感じる。 「結局お前誰なの」 「今から暴いてやるさ」  壱誓は朱莉から渡された宝鏡を一火に向けた。宝鏡が一火を写す。すると鏡面が光り、その光は一火に向かっていった。光は一火に当たるとじわじわと広がっていき、変身の術を解いていく。 「う、うわ!なんだヨ!」  光の眩しさに思わず動けなくなり、目を瞑ってしまう。光が収まって目を開けると、完全に変化が解かれていた。完全に変化する前の姿になっている。 「化け猫か」  変化する前の姿に戻され、化け猫は舌打ちをする。 「何故お前が一火さんになれる?」  壱誓が化け猫を強く睨む。自分たちがよく知る元上司の姿に変化していた事にただ気分が悪い。妖怪に詫びろなんて言うつもりはない。理由も聞くだけ気分が悪くなるだけだ。自分の今の行動に生産的意味があるとは思えない。ただ純粋な疑問の解消と、これからこの化け猫にぶつける怒りを溜めるという利己的な行動。しかしそれでも冷静さを欠くわけにはいかない。言葉で怒りをぶつけていないだけ自分を褒めたい。 「知らねえヨ。誰?さっきから言ってっけど。オレちゃんが変身してた奴のコト?あー。それでバレちゃったのネー。あれー?オレちゃん、今日ラッキーだと思ってたのになー。まさかこの顔知ってる奴に出くわすとか。ないわー」  あーあ、と言わんばかりにしゃがみ込む化け猫。 (マージ、これからどうしヨ)  下を見れば祓魔師がいる。しかも妖気や単純に雰囲気から長官連中っぽい。逃げるにしてもこれだけ祓魔師が集まっているとやりにくい。ふむ、と考え込む化け猫の前にひらひらと蝶々が飛んできた。 (コレ、滝夜叉のジャネ?)  ニヤリと化け猫の口端が上がる。 「やっぱ、オレちゃんラッキー?」  この蝶々が飛んできたという事は滝夜叉姫この状況が見えているという事。適当に助けを寄越してくるだろう。その助けが来るまではこの目の前にいる二人の祓魔師と戦っててもいいか。化け猫は両膝を叩き、ヨイショ!と立ち上がった。  その時、化け猫の頭の中でひらめきが起こった。首をゆっくり動かし、顔だけを壱誓と太陽の方に向ける。顔だけ向けられた壱誓と太陽はその気持ち悪さに少し身構えた。 「あ、ありゃりゃ?オレちゃん、思い出したネ~?お前らが言ってたイチカって男…いや、名前は分かんねえケド、二年前くらいに死んだんジャネ?」 「何故知っている」 「オレちゃん、ソコにいたもん」 「は?」  ケロッと答える化け猫に壱誓の中で憎悪が湧き上がる。平気な顔をしている化け猫が余計腹立たしい。 「確か一つ目入道に踏んづけられちまってたカナあ?」  その瞬間を見ていたからこそ言えるその発言は、化け猫が一火を知っている証拠だ。しかし何故そんな所に化け猫がいたのか。あの時の、一火の遺体を見に行こうとする壱誓の腕を掴んで止める朱莉の強い力が思い出される。 「オレちゃんは何もしてない。何もしない。…あー?いや、したなー」  基本何もしないが流儀。しかし自分の快楽のために動く事は厭わない。そこで一つ、化け猫は思い出した事がある。  う〜ん、とわざとらしく唸るポーズをして話し出す。 「そん時も確か適当に祓魔師になってたっけ?…そうそう!祓魔師になって!一つ目入道怒らせて!助けにきた祓魔師に助けてくれ~って言って!そしたらそいつ!オレちゃん庇って死んだんだ!キャハッ!」 ーブワッ  壱誓の中で怒りと憎悪が頂点に達し、妖気が体中から漏れ出る。  何故そんな事をした。何故そんな事が出来る。何故笑う。失う事の絶望を知らないのか。命をなんだと思っている。人が助けようとしたその行為を笑えるのは何故だ。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。  殺す。  あらゆる感情がこの言葉に集約される。壱誓は段々と息が荒くなり、肩が上下に揺れる。
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