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(一)ー2
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二人は祓魔庁本部の大手門を潜り、四課の本堂よりも大きい寺のような建物の前にいた。中の構造までは分からないが、四課の本堂で二階建てと思えば、ここは屋根裏を合わせて五階建てくらいありそうだ。
「倉林は本部には来たことある?」
「流石にないですよ」
来る用事もない。
建物の大きさや見て分かる年季もそうだが、漂う雰囲気から重圧を感じる。初めて見るそれに怯える和希を見て、朱莉は笑う。
「そんな構えなくていいよ。そこまで怖いとこじゃない。総帥と側近、後方支援部隊がいるだけ」
総帥とはその名の通り祓魔庁の最高官。後方支援部隊とは、諜報課、救護課、育成課の事である。
討伐隊に妖怪の情報や民間からの調査依頼などを回したり、討伐隊では補えない調査を行う諜報課。討伐隊を中心とした祓魔師が怪我をした際、療養の世話をする救護課。祓魔師の家系に生まれた子どもたちに妖力のコントロールを教え、妖術の会得に協力する育成課。祓魔師であれば必ずと言っていいほど深く関係する課であり、後方支援部隊の存在がなくては討伐隊も任務に支障がである。これらの課は各所に拠点を持つのではなく、本部に集約されている。少し離れた救護課の療養棟には、任務で怪我を負った四課の隊員も何人か滞在中と聞く。
「和希」
突然馴染みある声に呼ばれ、振り返ると、一課の長官であり、和希の父である倉林和雅が驚いた表情で立っていた。長官だけが着るコートをきっちり着込んだ大柄の男性。厳つい顔つきは優しそうな雰囲気の和希とは正反対。眉を顰め、和希を見ている。
我が父ながら相変わらずの威圧感だと和希は思う。
「何故、お前がここに」
「おや、和希くんじゃないですか。お久しぶりです」
和雅の言葉に被せるようにして喋りかけてきたのは一課の副官、祇園寺八雲。和雅より歳上の彼は、白髪が混じった髪をきっちり纏めており、制服も和雅同様、正しく着込まれている。
そもそも朱莉のようにコートの前を開けっ放しにしたり、太陽のように制服を着崩す四課が珍しいのだが。
厳格な和雅とは反対に八雲は柔らかい雰囲気を持っている。言われなければ、誰もが八雲の方が和希の父だと思ってしまうだろう。どこの課も長官と副官は正反対な雰囲気を持つのだろうか。
「お久しぶりです…」
「いやあ、うちの副官が来れなくなってしまいましてねえ。代わりに来てもらったんです」
和希が久し振りの父の鋭い視線に動揺し、言いにくそうに、でも挨拶を…と返していると、朱莉が平然と横槍を入れてきた。彼女の返答に和雅は怪訝そうになる。
「何も息子を代わりにしなくても…。まだ新人で芹沢長官のお手間を取らせるのでは」
「いえいえ。そんな事ありませんよ。よくやってくれていますよ。ね、倉林」
「えっと…」
自分の評価なんて自分の口から言えたものじゃない。父とはいえ、ここでは別課の長官。上司格だ。緊張して体が固まる。元々和雅は家では寡黙で和希もあまり彼とは話さないため、余計に緊張する。
「朱莉!」
ふと和雅たちの後ろからタイミング良く、女性の声が聞こえた。そちらを見やれば、髪型は違えど、朱莉と瓜二つの顔がそこにはあった。和希は直感的に、前に聞いたことがある朱莉の双子の姉だと思った。確か名前は蒼葉だったか。
「おはよう、蒼葉。どうしたの」
蒼葉はこちらの近付いてくると、和雅と八雲に一礼をして再び朱莉に向き合った。
「うちの長官見てない!?」
「私たちも今来たとこでね。見てないよ」
いつもすぐいなくなるんだから…とため息を吐く蒼葉。和希の記憶では彼女は五課の副官だった。長官とはぐれているようだが、どうやら今回ばかりの話ではないようだ。
朱莉が和希の肩に手を置いた。
「蒼葉。今年の新人、倉林和希くんです」
「は、はじめまして…」
「あ、君が!初めまして、五課の副官芹沢蒼葉です。朱莉がいつもお世話になってます」
蒼葉が深々と頭を下げるのを見て、和希も世話になっているのはこちらだと、慌てて頭を下げる。和雅も横で小さく会釈をしていた。
「希夜ならどうせ始まるまでには来るって」
「…まあ、そうだけど…」
「ここで立ち話もなんですし、中に入りましょう」
八雲に促され、一行は本部の中に入っていった。
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