選ばれたあなたージオン・カルサベカトルの場合ー

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俺はアレクと同じサードスクールに進んだ。そこは国一番と言われる学力とブランドを持つ学校で、入るためにそれなりに勉強が必要だった。そこまで勉学を好んではいない俺だが、そこそこ頑張った甲斐はあり、優秀と呼べる成績で入学することが出来ていた。 ところが、アレクは派手に遊んでいるくせに俺よりも誰よりも優秀な成績で入学し、新入生代表の挨拶をしていた。才能と要領の良さの差に、胸がムカムカした。 シェーンもレイチェルも居ないこの学校で、アレクはのびのびと過ごしているように見えた。そもそもこの学校に女は殆どいない。男子校という訳ではないが、金持ちの令嬢はこの学校ではなく、近所にある御嬢様学校と呼ばれる学校に入学するのが当たり前だったのだ。その学校で『淑やかで優雅な美しい令嬢』としての嗜みや芸事等を学び、将来、より良い家柄の金持ちの子弟に愛され、嫁げるよう、所謂『女磨き』とやらに明け暮れる。 そんな御嬢様学校と俺達が通う、優秀な金持ちの子弟ばかりが通う学校間には交流があった。合同のイベントもあり、そこで親睦を深め、将来を約束し、実際に結婚する男女もいる。そうはならずとも互いに確かな学校のブランドがあるため、親がこれらの学校卒の者から結婚相手を選ぶケースも多かった。故に、御嬢様学校に通うことは金持ちの令嬢にとって、確かな将来を掴むための第一歩なのだった。 そして、アレクはこの御嬢様学校の令嬢に大人気だった。さすがに「私が彼の最愛に」と意気込む程の女は居なかっただろうが、アレクは相変わらず誘われれば、ほいほいそれを受けていた。セカンドスクールの時は殆どしてはいなかった朝帰りとやらも増えているようだった。住んでいる屋敷とは別に、遠方から入学してきた学生のための学校の寮の空き部屋を自分のものにし、そこに女を連れ込んでいるという噂も聞いた。 「その通りだよ。」 気になって確かめてみると、あっさりと認めた。気まずいことを尋ねられたという素振りすらなく、ただ、訊かれたから頷いた、という感じしかしなかった。 「別に彼女達と結婚する気はないのだろう。それはどうなのだ。」 そう問うと、不思議そうに首を傾げてから、呆れたように嗤われた。 「ジオン、君はいつの時代の人間なんだい。結婚相手にしか身体を許さないなんて、そんな貞淑な女性はとっくに昔に絶滅してるよ。今はそんな堅苦しい時代じゃないんだ。女性だってもっと気軽に色事を楽しんでるよ。単純に気持ち良くなるためにね。」 目の前で嗤っている男が、信じられなかった。考え方が違いすぎて、同じ生き物だとすら思えなかった。俺の中で一般的な女が身体を許すのは、結婚した相手だけという認識だった。が、この男は違うようだ。 「だが、アレク。彼女達は妊娠する可能性があるだろう。それなりの覚悟を持って、アレクに身を任せているのではないのか。」 俺の言葉に、アレクは相変わらずニヤニヤと嗤っている。俺のことが、可笑しくて堪らないという嫌な笑みだ。 「ジオンはやっぱり一昔前の人間みたいだね。今は避妊の方法だってきちんと確立してる。妊娠しないようにはいつも気を付けているよ。」 「だが」 「絶対じゃない、とか言いたいんだろう。まぁ、中にはあわよくば僕との間に子供をもうけて、それを理由に結婚を迫ろうと考えてそうな女性もいるけどね。僕はそんな手には乗らない。仮に本当に妊娠したとしたら、そうだね。結婚はしなくても一生囲って面倒みれば文句は言われないかな。」 アレクはそう言ってわらった。隙をつかれる行動をするつもりはない。だが、もしもの時はきちんと対応出来るという自信が彼の顔には溢れていた。 「まぁ、その辺りは父様が詳しいから、もし困ったら頼るよ。」 彼はそう言ってふわりと笑った。そこには憂いだとか、そういったものはなく、本当に当たり前のことを言ったという雰囲気しかなかった。 アレクは、俺とは住む世界が違う。整った顔で笑う彼が随分と遠くにいるように感じた。
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