10人が本棚に入れています
本棚に追加
日々はあっという間に流れ、俺とアレクは進級した。辺りは秋の色が顕著で、涼しく過ごしやすかった。
シェーンは例の御嬢様学校に入学した。相変わらずアレクが大好きで、彼により相応しい女性になると意気込んでいた。レイチェルも当然、同じ学校に入学するものと思い込んでいたが、そうはならなかった。
「レイチェル。」
「アレクサンダー様。」
「こんなところで会うとは思わなかったよ。」
レイチェルは俺やアレクと同じ学校に入学していたのだ。それは俺の中ではあり得ないことだった。俺が尋ねに行くより素早く、アレクが親しげに彼女に話し掛けていた。俺は近くの木の蔭から、その様子を見ていた。
「どうして、君がこの学校に?」
俺達が通うのは、『エリート』と呼ばれる頭脳を持ち、そのうえ金持ちである家の子息ばかりが通う学校だ。女は殆どいない。金持ちの家の女はこの学校ではなく、近所の御嬢様学校に通い、女としての魅力を磨き、将来より良い家柄の金持ちの子弟のもとへ嫁げるよう、励むはずなのだ。
そこに通わず、俺達が通う学校に入学する金持ちの家の令嬢も居ないことはない。ここは男子校ではないのだ。だが、彼女達にはある特徴があった。
簡単に言えば、容姿に酷く恵まれなかったのだ。それでは将来、より良い家柄の金持ちの子息のもとへ嫁ぐことは難しい。そのため、将来は何か職に就いて立派に一人でも生きていけるよう、勉学に力をいれるという訳だ。ならば御嬢様学校に行くより、この学校に通った方が良い。
しかし、この特徴はレイチェルには全くあてはまらない。彼女は誰よりも美しいのだから。
「より高度な数学を学びたかったので。この学校は数学のレベルも高いでしょう。」
レイチェルはそう言って、微笑んでいた。アレクを見つめる顔は相変わらず恋する乙女のものだった。
レイチェルを見たのは久しぶりだった。ただの金持ちの娘でしかない彼女は社交界へのデビューもまだで、そういったパーティーで見かけることも当然なかった。学校も違っていたから、目にする機会もない。それはアレクも同じはずなのだが、そんな様子はあまり感じない。
「そうなのかい。」
アレクはそう呟き、次の瞬間にはとても嬉しいという様子で微笑んだ。
「君と同じ学校に通えるのは嬉しい。良かったら、一年生の校舎まで案内するよ。」
アレクはそう言いながらあっさりと彼女の腰を抱いた。少し驚いた様子の彼女だが、すぐに嬉しそうに表情を緩めた。その顔には、やはり恋する乙女の微笑みが浮かんでいる。
「ありがとうございます。」
腸がぐつぐつと煮えくり返る。
小賢しい。数学を学びたいなんて、嘘だ。否、嘘ではないかもしれないが、一番の理由ではない。あの女はアレクと同じ学校に通いたかったのだ。この学校の中なら、シェーンもアレクを誘える少し自分に自信のある女達も居ない。アレクが相手にする女はレイチェルだけだ。この機会に仲を深めようというのか。小賢しい。生意気だ。
ふいに先程の二人の様子が頭に思い浮かんだ。アレクはあっさりとレイチェルの腰を抱いた。きっと彼女の服の下の肌に直に触れること等、彼にとっては容易いことだ。レイチェルはそうなることを望み、そう仕向けるに違いない。そして、あわよくば彼の子を身籠って、「結婚して欲しい」等と宣うのか。そうすれば、アレクはどう返事をするのか。受け入れるのか、それとも。
考えるだけで苛々する。
俺は許さない。絶対にあの女の思い通りにはさせない。握り締めた拳に爪が食い込んでいたことにも気付かない程、俺は怒りに震えていた。
最初のコメントを投稿しよう!