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さっさと図書館を出ようと歩みを進めていると、不意にそれを妨げられた。原因である後ろを振り返ると、レイチェルが歩みを止めていた。穏やかに微笑んだままの彼女は、そのまま繋いでいた俺の手を振り払った。しっかり掴んでいたはずなのに、彼女の手は簡単に離れてしまった。
「…っ、おい」
生意気だ。ただの金持ちの家の女が自分より格上の男である俺の意に背くなんて。
苛立ちを隠せない俺は、それをぶつけるかの如く彼女の肩を掴もうとしたが、それはかなわなかった。
「ここは図書館ですよ。幾ら人が少ないとはいえ、お静かに願います。」
俺をさらりと躱した彼女は、そのまま流れるような動作で、右腕に抱えていた本を側の棚へと戻していた。
それを見て、俺は思い出した。先程、読んでいた本を途中で棚に戻したいと言っていた彼女に頷いたことを。彼女は、それを実行しただけに過ぎない。
「お話をするのなら、ここを出た方が良いですね。参りましょう。」
そう言って俺を見た彼女は、いつも通りの穏やかな微笑みを浮かべていた。
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