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レイチェルを俺のものにする。そう決めたものの、なかなか上手くはいかなかった。あれ以来、学校でアレクがずっと俺にくっついて来るため、ますますレイチェルに近付けないのだ。どうやら、俺は警戒されてしまったらしい。
そのまま変わり映えしない日々を過ごすなか、ある事態が起きた。それはあと二週間程でクリスマス休暇のため、学校が少し長い休みを迎えるという時だった。
休日だったその日、シェーンはアレクに誘われて出掛けていた。この間十六歳の誕生日を迎えていたため、そのお祝いをしてくれるというものだった。アレクは毎年欠かさずシェーンの誕生日を祝ってくれていた。が、こうして改めてデートに誘って二人きりで、というのは初めてで、シェーンは完全に浮かれていた。ついにアレクもシェーンに決めたか、と俺も嬉しく思っていた。だとすれば、レイチェルは簡単に俺のものになる。
シェーンの帰りが遅かった。アレクと出掛けるのは初めてのことではなく、今までと比べて明らかに遅かったのだ。心配で、何回も時計を確認した。
彼女が帰ってきたのはもうすぐ日付が変わるという時間だった。アレクが家まで送ってきて、謝罪もしていたから特に問題にならなかった。基本的にカルサベカトルの家は、グリスツェンの家にだけは頭が上がらないのだ。
シェーンはどことなくぼんやりしていた。夕食は食べてくると言っていたため用意されておらず、そのまま部屋に行こうとするので、俺はそれを追いかけた。
「シェーン、シャワーぐらい浴びてから眠ったらどうだ。」
ノックをし、部屋に入ると、シェーンはぼんやりとベッドに寝そべっていた。その瞳はどことなくトロンとしていて、心ここにあらずという感じだった。
「お兄様。大丈夫よ。もう浴びてきたわ。」
「外でシャワーを浴びたのか。」
「アレク様の御屋敷にお邪魔したの。そこでアレク様が身体を洗ってくださったわ。」
その言葉で、事態を理解した。顔から血の気が引いた。シェーンはアレクに抱かれたのだ。
俺はベッドに寝そべるシェーンの脇にしゃがみこんだ。
「シェーン、アレクに身体を許したのか。」
「ええ。ずっと夢見ていたの。アレク様が私を求めてくださるのを。とても優しく抱いてくださったわ。最高の時間だった。」
シェーンはまるで夢を見ているような調子でうっとりとそう話す。後悔しているような様子は全くなかった。
「だが、シェーンはアレクと結婚している訳ではないだろう。」
「そんなこと、言ってられないわ。たくさんの女性がアレク様になら一晩だけでもとお誘いしているのよ。断ったら、もう誘っても貰えないかもしれないわ。いくらでも相手はいるのだから。」
シェーンはそう少し呆れた調子で言った。何を馬鹿なことを言っているの、という雰囲気さえあって、俺は正直戸惑った。
「それに、ずっと望んでいたことなのだから、断る理由なんてないわ。アレク様になら、何をされても構わない。避妊もしなくて良いと言ったのだけど、それは受け入れて貰えなかったわ。」
「当たり前だろうっ。」
残念そうに言うシェーンに、つい声が大きくなった。「お兄様、声が大きいわ。」と窘められて、慌てて口を押さえた。
「でも、男性はその方が気持ちが良いのでしょう。アレク様には他のどの女性よりも私で満足していただきたいの。私はアレク様との子供ならいつでも歓迎だから、避妊せずとも問題はないし。」
「問題はあるだろう。」
俺は完全に頭を抱えた。どうしてこうも俺の周りの人間は貞操観念が緩いのだろう。そもそも学生なのだから今子供が出来るのはあまりよろしくないという思考に、どうしてならない。
「まぁ、それはそれとしてお兄様。私、身体もレイチェルに勝っているのよ。」
真剣な口調になったシェーンは起き上がり、ベッドから降りて俺の前に座った。その顔には分かりやすい闘志と自信が溢れていた。
急に出てきたレイチェルの名に、一瞬胸がドクンとなった。
「男性は胸の大きな女性が好きでしょう。この通り、私は胸も大きいのよ。周りの女性を見ても、私が一番だわ。」
シェーンはそう言ってスッと胸を張った。兄の贔屓目と胸元を強調する服を着ているのを差し引いても、豊満としか言えない大きさだった。彼女は明らかに発育が良かった。
「それに比べてレイチェルはどう。いつもふんわりと余裕のある服を着て、胸の大きさがわからないようにしているでしょう。私の周りの胸の小さい子も同じような服を着ているわ。レイチェルは顔は綺麗だけど、身体は大したことないのよ。アレク様は大きくて形も綺麗な胸が好きと言っていたから、レイチェルはあてはまらないわ。」
そう言って彼女は、ふっと鼻でわらった。勝ち誇ったような笑みだった。
「だから、レイチェルはアレク様を満足させることは出来ないのよ。学校も一緒で、もしかしたら私よりも先に抱かれているかもしれないけど。それでも、私の方が可愛いし、胸だってあるんだから。アレク様はレイチェルよりも私のことを、ずっとずっと愛してくださるはずだわ。」
シェーンはそう噛み締めるように言った。まるで自分に言い聞かせているような口ぶりだった。
どうやら、アレクはまだシェーンだけに愛を誓う気はないらしい。確証がないから、シェーンはこんなに不安がり、わざわざ自分を安心させるための理由を見つけ出さなければならないのだ。
ならば、やはりレイチェルを早く俺のものにしなければ。すでにアレクに手を出されているのかもしれないのは癪だが、この際それには目を瞑ろう。そしてシェーンを安心させ、俺はレイチェルを娶り、あの小賢しく生意気な女の身体を毎晩好きなようにするのだ。
レイチェルがはしたない声で俺を求める姿を想像すると、愉快で堪らない。俺はシェーンの手前、顔色は変えず、心のなかでそっとほくそ笑んだ。
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