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あれから、完全にレイチェルに怯えられている。俺と目が合うだけで、彼女は瞳に恐怖を浮かべ、震え上がる。そんな反応をされては、近付くことさえ憚られる。早く誤解を解き、気持ちを伝えたいのはやまやまだった。しかし、想いを自覚した今、彼女を俺のものにしたいという願いは、少し形を変えていた。
交際も婚約も結婚も、俺が無理矢理従わせるだけでは駄目だ。彼女にも俺自身のことを好きになって貰って、お互いに気持ちを通わせて、そのうえでそれこそ、身も心も結ばれたいのだ。
だが今、その願いは絶望的と言って良かった。何せ、俺が近付くだけで、彼女は怯えてしまうのだから。このまま近付かない方が彼女にとって良いのではないかとも思った。が、それだと彼女はアレクに良いように扱われるだけになる可能性が高い。それだけは、どうしても嫌だった。
そんなことを考えながら俺は一人、帰路に着こうとしていた。今まではシェーンも一緒に迎えの車で帰ることが多かった。が、最近は外が明るい時分は徒歩で帰るようにしていた。一人でゆっくり考えたいこともあるし、何より徒歩で通学していることの多いレイチェルを、見つからぬよう遠目からでも見ることが出来ればという思いも少しあった。
「きゃっ。」
校門を出てしばらく歩いたところで、一人の女性とぶつかった。装いや雰囲気から、近所の御嬢様学校の学生だと思った。俺達の学校と通学路が被っているところもあるのだ。
彼女は友人何人かと少しふざけながら歩いており、周りをよく見ていなかったようだ。そして俺にぶつかり、そのまま尻餅をついていた。
「あ、あの」
「大丈夫か。」
少し青ざめた顔をしている彼女にそっと手を差し伸べた。彼女は呆気に取られたような顔をしながら俺を見ている。そのまま操られるように、俺が差し出した手を取った。
「よそ見をしていると危ないぞ。怪我でもしたら大変だ。」
そのまま手を引っ張り、彼女を立ち上がらせる。彼女は身体を起こしながらも、ずっと俺をポカンと見つめていた。
「あ、ありがとうございます。」
「あぁ。気を付けるんだぞ。」
思い出したように礼を言う彼女に向けて、そっと微笑みながらそう言った。彼女はやはり驚いたように目を見開いて俺を見ていたが、その顔が勢い良く赤く染まった。
「…本当に大丈夫か?」
「は、はい、だいじょうぶです。ほんとうに、ありがとうございました。」
早口でそう言って頭を下げると、彼女は友人達と連れ立って、慌てたように去っていった。
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