選ばれたあなたージオン・カルサベカトルの場合ー

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俺とアレクは同じセカンドスクールに進んでいた。十代になって何年か経った子供が学ぶ学校としては、国一番のランクに位置すると言ってよかった。金持ちであるのは当然のこと、ある程度の学力も求められる学校だった。 そこで一年過ごし、進級すると妹のシェーンも同じ学校に入学してきた。暑い季節が一段落しそうな、過ごしやすい秋の気配のする頃のことだった。 彼女は美しいのは勿論のこと、程良く聡明な出来た女性だった。自分が出過ぎることはなく、常に男を立てることが出来る。そんな彼女は俺の自慢だった。 「やっぱり、カルサベカトルのお嬢さんは綺麗だよなぁ。」 「ジオンさんが羨ましいです。あんなに可愛い妹さんがいらっしゃって。」 入学してきた新入生が一挙に集う礼拝堂の中を一望出来る位置で、呑気に入学してきた女の値踏みをしている周りの男達がそう溜め息を吐いているのが、愉快でたまらない。 「羨ましいと言えば、アレクサンダー様もだ。そんな綺麗で可愛らしい御嬢様の心を一人占めにしておられる。」 だが、彼女は相変わらずアレクに夢中だった。アレクも彼女を気に入っていたから、将来はこのまま結婚でもするのだろうと考えていた。 「そのうえ、アレクサンダー様は」 話を続けようとした男の顔が少しだけ羨ましげに歪んだ。アレクは新入生への上級生代表の挨拶をするとかで、この場には居なかったのだ。 だが、男が続きを言うことはなかった。 「え、おい、あれ誰だ?」 男達の声色も顔色も変わった。気になって目を向けた先に居た女を見て、俺はおもわず息を飲んだ。 今まさに入り口から入ってきたのは、物凄く綺麗な女だった。絹のようにさらりとした金色の髪。瞳は夕焼けを溶かしたような、うっすらと朱い珍しい色をしていた。この何とも形容しがたい朱い色だけは、遺伝で伝わる訳ではないのだ。スッと通った鼻筋も、うっすらと微笑みを浮かべたほんのりと赤みを帯びた唇も、全てが美しく象られ配置されていた。 「いや、知らない。誰か同じ学校だった奴いないのか?」 そう、呼び掛ける男の声に、答える者はいなかった。 この学校に通うのは、それなりに金持ちである家の子息や令嬢だけだ。そういう子供は、セカンドスクールの前に通うファーストスクールもある程度限定される。誰か知っている者がいるはずだった。が、そもそもあれだけ綺麗な見た目をしていたら、ファーストスクールが違っても噂になるだろうし、社交界で話題に上ってもおかしくない。いや、聞いたことがない、誰も知らない今の状況が明らかに不自然だった。 「誰も知らないのか。あんなに綺麗なのに。」 そう、うっとりと呟く男の言葉は、皆の心を上手く代弁していた。周りも皆、惚けたように彼女を見ていた。さっきまで視線を釘付けにしていたシェーンに目を向ける者は誰もいない。それが俺は酷く面白くなかった。
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