選ばれたあなたージオン・カルサベカトルの場合ー

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彼女の素性はすぐに分かった。学校中の噂になっていたからだ。 名前はレイチェル・スリトリビン。家柄だけで言えば、大したことはない。昔は貴族の家だったというだけで、今は単に金持ちの家の娘であるに過ぎない。そのうえ、スリトリビンの血を引く彼女の母親は次女であるため、大したことのない家の正式な継承者ですらない。将来は他の金持ちの女と同じように、より良い家柄の金持ちの男に嫁ぐしかない。少し見目が良いだけで、あとは取るに足らない女だった。 最初誰も彼女のことを知らなかったのは、彼女がファーストスクールに通っていなかったかららしい。幼い頃から身体が弱く、熱を出したり風邪を拗らせたりということがしょっちゅうで、外に出るのさえままならなかったという。一年程前から回復していき、今は問題ないということで、セカンドスクールからはこの学校に通えるということだった。 少し美人なだけで家柄は大したことなく、身体さえ丈夫でなさそうであるにも関わらず、彼女の人気は絶大だった。彼女はいつもたくさんの同級生の女に囲まれながら微笑んでいた。俺の周りの男達はそんな彼女を見かけては感嘆の溜め息を吐いていた。学年が違ってもこうなのだから、同じ学年で彼女と接する機会のある男達は相当だろう。思い余って彼女に告白だとかをする者が現れても可笑しくはない。  が、そんな奴はいなかった。見込みがないと分かっていたからだろう。彼女が誰を想っているのか、それは周知の事実となっていたから。
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