選ばれたあなたージオン・カルサベカトルの場合ー

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「お兄様、アレク様が美術館に誘ってくださったわ。」 アレクは非の打ち所のない男だが、持て囃される故か、女性関係が少々派手だった。が、自分から何か働きかける女性は、シェーンだけだ。それは、シェーンやレイチェルが俺達と同じ学校に入学して半年程経過しても変わらなかった。 まだ少し雪が降ることはあるが、そういう日も大分減ってきた冬の日のことだった。 「良かったな。だが、シェーンは、やはりそんなに絵に興味はないだろう。」 「大丈夫よ。アレク様が好きなものなら私も好きになれるし、美術のことも勉強して大分詳しくなっているわ。」 シェーンは健気な出来た女性だった。大好きなアレクのためにそこまで興味のない美術関係のことをコツコツと勉強していた。アレクは幼い頃から美術品、特に絵画の鑑賞を趣味にしていて、それに付き合うためだった。 その努力が功を奏しているのか、彼がそういったものに誘うのは、いつもシェーンだった。 「折角アレク様を一人占めに出来るのだもの。楽しみだわ。」 彼女はそう言って、にこにこと嬉しそうに笑った。 シェーンは物凄く健気で、それでいて程よく聡明な良く出来た美しい女性だった。アレクのことが大好きで、本当は彼には自分だけを見て欲しいと思っているだろう。が、女に人気で誘いを断ることも苦手なアレクは気安く他の女の誘いに乗る。だが、自分から何かに誘うのはシェーンだけであったし、彼女のことだけは確かに特別視していた。結局最後に選ばれるのは自分だという自信と期待が、シェーンに余裕を与え、彼女は懐の大きなアレクの帰る場所となっているのだ。  妹だけを大事にしないのは、兄としては面白くない。選り取り見取りで様々な女と遊び歩いているのも、面白くはない。それでも、アレクはそれが許される選ばれた男だという事実は、認めざるを得ない。俺が同じようなことをしようとしても、同じようにはいかなかったからだ。誘った女は格上の俺相手に嫌とは言わない。いつも誘いを受けはするが、繕った笑顔はずっと嫌そうに歪んでいる。だが、アレクの時はそんなことはなく、むしろ皆自分から誘いをかけるのだ。 俺は選ばれた人間であるはずなのに。どうしてこうも扱いが違うのだろう。皆、俺ではなく、アレクが好きなのだ。レイチェルだってそうで、きっと、アレクが誘ったら嬉しそうに頷き、喜んで彼の望むものを何でも捧げるのだ。 そんな様子が簡単に頭に思い浮かぶ。面白くない。シェーンが近くにいなければ何かを投げ飛ばしたいくらいには、俺は苛々していた。
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