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「どうしてなの。今まで特別なのは私だけだったのに。」
シェーンは枕に顔を埋めて泣いていた。俺はその傍らで彼女の頭をそっと撫でていた。
シェーンとアレクは交際している訳ではない。アレクは様々な女と遊んでいた。だが、それは誘われればの話で、アレクが自分から構うのはシェーンだけだったのだ。それが変わってしまった。アレクはレイチェルに自分から近付いたのだ。それはシェーンの中の、自分は彼の特別だという自信と期待を、木っ端微塵に砕いた。
「確かにレイチェルは綺麗だし可愛いし良い子だけど。でも、私の方が可愛いし、私の方がアレク様のことをよく知っているし、私の方がアレク様のことをずっとずっと好いているわ。家柄だって私の方が圧倒的に良い。私の方がアレク様に相応しいのに。なのにどうして。」
シェーンはグズグズと泣きながら顔を上げ、今度は俺の胸に顔を埋めて泣き出した。俺はその頭をあやすように撫でながら、考えを巡らせていた。
シェーンの言う通りなのだ。俺達は幼馴染みで幼い頃から付き合いがある。過ごしてきた年月がレイチェルとは圧倒的に違う。家柄だってこちらは皇族に次ぐ立場だが、向こうはただの金持ちに過ぎない。比べるまでもない。
「あの女は珍しい瞳を持った少々見目が麗しい女だからな。少し目が眩んでいるだけだ。いずれシェーンだけが特別だと、アレクも気付くだろう。」
口ではそう言って慰めたが、どうにも腑に落ちていなかった。確かにレイチェルは、ハッとする程の美人だろう。瞳だって珍しい。だが、見目で言えばシェーンだってなかなかのものだ。そもそも美しさだとか珍しさに興味を持ったのなら、もっと早い段階、彼女が入学してきた段階で構い始めるはずなのだ。なのに、アレクは半年程経った今になって彼女に興味を持ち出した。何かがあったのだ。アレクが今になってあの女に興味を持ち、自分から近付こうと思う何かが。
そして、その理由を作ったのはレイチェルだ。女のくせに勉学でも目立とうとするあの女は、きっとその小賢しい頭でアレクが自分に興味を持つように仕向けたのだ。今まではただ見ているだけで、自分からアレクにアプローチすることはおろか、近付くことすらなかったくせに。
腸が煮えくり返った。小賢しい。生意気だ。あの女は、シェーンの自尊心をズタズタに切り裂いた。俺は兄として、黙って見ている訳にはいかない。
シェーンから見えないのを良いことに、俺はそっと奥歯を噛み締めた。
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