選ばれたあなたージオン・カルサベカトルの場合ー

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レイチェルに何か物申したい。 そう思いながら日々を過ごしていたが、機会はなかなか訪れなかった。あの女はいつも人の輪の中心にいた。周りにいるのが女だけなら気にせず連れ出せば良いが、あの女は人の多いところにしか行かず、そこには男も少なからずいたから迂闊に動けない。下手なことをして、大して良くはない自分の評判を落とすことはしたくなかった。 そうこうしているうちに、明日から夏休みという日になった。確かに暑いが、太陽が爽やかな時期だった。 その日、レイチェルは春に描いたという絵で表彰されていた。それに本人よりも喜んでいたのがアレクだった。 「素晴らしいよ、レイチェル。やはり君の絵は僕だけでなく、周りからも褒められ、認められるものなんだよ。」 そのまま延々と続けられる賛辞を、彼女は例のうっとりとした表情で聞いていた。アレクに見惚れ、内容など、ろくに頭に入ってもいないだろう。 どうやらアレクは彼女の絵を、相当好んでいるようだった。「君には分からない」と、アレクは俺に絵に関する話は全くしないから、気付かなかった。 おそらく、理由はこれだ。あの女はどこからかアレクが絵画に興味を持っていることを知り、自分の絵を何らかの形で彼に見せることで、興味を引いたのだ。それ程の絵の腕前を持っていることは凄いとしか言いようがないが、やはり、アレクが彼女に興味を抱いたのは、この女の作戦だったのだ。 本当に小賢しい。生意気だ。 俺はアレクにうっとりと恋する乙女の顔を向けるレイチェルを見て、ギリッと音がしそうな程、奥歯を噛み締めていた。
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