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その日、俺は日直だった。
黒板の文字を消した後、職員室に特攻し、日誌をラスボスに渡し、回れ右して帰るだけ。
「幸他(こうた)、アンタ、今時間ある?」
目の前にいるこの男は、俺がラスボスって言っている、担任の龍真(りゅうま)さんだ。
パーマのかかった長い髪を、後ろで一つに縛っていて、狐みたいな目には緑のアイシャドウをつけている。そこまでは譲歩しよう。いつも見てしまうのだが、薄い唇にぬられた赤い口紅はいかん。お前、「男子教師だろ!」って言いたい。
「特にはないですけど」
特に用事はなかったし、嘘をつくのも嫌だった。
「零夜(れいや)を探して、ここに連れてきて欲しいの。わかるかしら? クラスメイトの」
「え、どんな子?」
「あー……。えっと、伊達眼鏡でいつも俯いている子よ。図体はデカいのに、何が怖いのかしら」
「えーっと」
普段、女子とばかり喋っているので、男子って言われても、ピンとこない。
「ちょっと待って! 修学旅行の写真があるから」
「ほーい」
ラスボスの財布の小銭入れの中から出てきた、半分に折りたたまれていた写真を覗き込む。
「この子よ。アンタの右隣にいる子」
「背ぇ、俺より高けぇ」
「そそ! いつもアンタを見ている子よ」
見ている子と言われても意識したことがない。
「見てるっけ?」
「見ているわよ。鈍感ね」
それに見ているとしても、なんの為にかもわからない。
「……探してくるだけでいいんですか?」
「まぁ出来れば、仲良くしてやってほしいけど」
「?」
「ああ……。あの子、アタシの彼の弟なの。他の人には内緒よ?」
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