追憶と傷跡

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◆1 その日、俺は日直だった。 黒板の文字を消した後、職員室に特攻し、日誌をラスボスに渡し、回れ右して帰るだけ。 「幸他(こうた)、アンタ、今時間ある?」 目の前にいるこの男は、俺がラスボスって言っている、担任の龍真(りゅうま)さんだ。 パーマのかかった長い髪を、後ろで一つに縛っていて、狐みたいな目には緑のアイシャドウをつけている。そこまでは譲歩しよう。いつも見てしまうのだが、薄い唇にぬられた赤い口紅はいかん。お前、「男子教師だろ!」って言いたい。 「特にはないですけど」 特に用事はなかったし、嘘をつくのも嫌だった。 「零夜(れいや)を探して、ここに連れてきて欲しいの。わかるかしら? クラスメイトの」 「え、どんな子?」 「あー……。えっと、伊達眼鏡でいつも俯いている子よ。図体はデカいのに、何が怖いのかしら」 「えーっと」 普段、女子とばかり喋っているので、男子って言われても、ピンとこない。 「ちょっと待って! 修学旅行の写真があるから」 「ほーい」 ラスボスの財布の小銭入れの中から出てきた、半分に折りたたまれていた写真を覗き込む。 「この子よ。アンタの右隣にいる子」 「背ぇ、俺より高けぇ」 「そそ! いつもアンタを見ている子よ」 見ている子と言われても意識したことがない。 「見てるっけ?」 「見ているわよ。鈍感ね」 それに見ているとしても、なんの為にかもわからない。 「……探してくるだけでいいんですか?」 「まぁ出来れば、仲良くしてやってほしいけど」 「?」 「ああ……。あの子、アタシの彼の弟なの。他の人には内緒よ?」
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