追憶と傷跡

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◆10 電話相手は多分、ラスボスだろう。 歩夢がめっちゃ相手に怒っている。 「なんで言うの? ボク、めっちゃ怒ってるからね!」 そのまま切られた電話に、唖然とする。 「ちょ……。ラスボス、内緒って言ってたし、俺が悪いのに」 「え、でも! 龍真とは、その……」 「? ラスボスと何?」 「……」 ゴニョゴニョ、小声で言う歩夢。 それを見て、溜息をつく零夜。 「ハッキリしないと、僕が」 「あーーーー! もう、わかったよ。言うー!」 スーハースーハー、めっちゃ深呼吸してるけど、過呼吸だろうか? 「大丈夫?」 「大丈夫!」 なんだろ。 また感謝されるとか? 「ボクが好きなのは幸他くんなの! 龍真とは、別に付き合ってないし、ボクが幸他くんに言えるまで、支えるって言われただけ……」 「でも彼って」 「……勘違いさせたボクが悪いのかもだけど、でも」 「勘違い……?」 なんだろう。勘違いって。 「……と、とにかく! 恋愛対象! 好きなんだ! 幸他くん!」 「……」 なんて答えればいいんだろう。 偏見とかはない。 けど、ラスボスが可哀そうだし、それに。 チラッと歩夢の隣にいる零夜を見ると、少し困った顔をしている。 「駄目……? どう? 駄目?」 気持ちは嬉しいけど、きっと吊り橋効果だろうし……。 「ラスボスに言えんの?」 「え? 何を……?」 「あなたとは終わりです、って」 「それは……」 言えるわけない。 顔を見ていればわかる。 気づいていないだけで、歩夢はラスボスが好きな筈だ。 じゃなきゃ、眉寄せたりしないし、不安そうな顔にもならない。 「ごめん。君とは無理」 「!」 「それに」 「……それに?」 俺はどちらかと言うと。 「こっちのがタイプかも」 「!?」 指差された零夜は、えっ僕? って、焦った顔。 「女装やめてくれたら、こっちのがいい」 「女装駄目なの!?」 「女装男子求めるなら、女と付き合うし」 「……そう」 まぁ、俺は恋愛しないけど。 と、付け加えた。 「え、恋愛しないって何!?」 「俺、女好きだし、女友達も多いから、もし付き合っても嫉妬すんじゃない?」 「……それは」 「後、もし付き合うとして……。俺、受けは嫌だし」 とりま、そういうことで、と歩夢の胸を押す。 そうしないと立ち上がれない程の近さにいたから。 「ボクは大丈夫だよ……」 「大丈夫? って、何が?」 「受け、でも……」 「俺、ラスボス結構好きだし、傷つけることなんて出来ねぇよ」 すると、スッと退いた歩夢。 「ごめんな、歩夢くん」 「……」 一歩、二歩、三歩と歩いて離れる。 でも、四歩目は踏み込めなかった。
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