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『今どこにいるの?』
テーブルに出しっぱなしにしていた携帯電話の画面が白く輝いた。小刻みに振れながら、メッセージを表示する。
「女?」
テーブルの向こう側から携帯をちらりとのぞきこんだ相棒のジロが、半笑いで俺のほうを見た。暗い室内で、ノートパソコンの明かりがジロの顔の半分を青く照らしている。
「女じゃねーよ」
不愛想に言い返すと、ジロは片眉を大きくあげた。
「あれ、不機嫌だね。僕、地雷踏んじゃった?」
細おもての上品な顔で、いつも調子の良いリアクションを返す。
「心当たりがないんだ。機種変しても、SIM変えても、なぜかしつこく特定して送ってきやがる」
「ストーカーじゃん」
「いや、亡霊だろ」
俺はゴム手袋をはめた手で、真鍮のケースから注射器を取り出した。消毒液は必要ない。床に転がった女の口を開けさせて、指で舌をかきわけ、下あごの裏に突き刺した。
一時間ほど前、ジロとこの女は北新宿のショットバーにいた。
ひとりで飲んでいたターゲットをジロがナンパする。隙を見て飲み物に睡眠導入剤を混ぜ、昏睡させる。介抱するフリをしてタクシーに乗せ、ターゲットの部屋へ連れこむ。
あとは俺が合流して、最後の仕上げをする手はずだ。
『死期予言掲示板』
ダークウェブのヤバい掲示板のひとつ。
『岩崎千恵美 32歳 ユニバーサルサービス新大久保支店勤務』
このあと、住所、電話番号、メールアドレス、家族構成まで細かく書きこまれている。
『この人の死期と死因を当ててください。当選者には賞金三百万円を送金いたします』
俺はこの掲示板で死期予言を依頼された人物を片付けては、賞金を得て暮らしている。
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