目立ちたがり屋でジャグリング上手なあいつへ

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 数十分後。ロケバスは山奥の辺鄙な砂利道に停車した。 「愛斗の奴、今こんなところに住んでるのか」  東京の都心に居を構える今の傑にとって、こんな場所は人が住むところとは到底思えない。かつてのライバルの騰落ぶりに小さくほくそ笑みつつも、一方でどこか悲しくもあるような不思議な感情が去来する。 「こちらです、すぐちゃんさん」  番組スタッフに促されるまま歩くと、一軒のボロ屋の前に辿り着いた。玄関のチャイムを鳴らすと間もなくドアが開き、瘦身長髪の男性が現れた。深く落ち込んだ眼窪に、良く通った鼻筋。薄い唇。子供の頃の面影を残したままの面長なその顔は間違いなく、愛斗だった。 「久しぶり、傑」  あの頃とは違う太く低いハスキーボイスで呼びかけられ、一瞬誰の声かわからなかったが、すぐに目の前の愛斗から発されたものだと気付き、「おう」と辛うじて返事をする。 「こちらがっ、すぐちゃんさんの小学生時代の『親友』、愛斗さんでーす!」  進行役の芸人がまるで珍獣でも見つけたかのようなテンションで言い、傑の隣に愛斗を並び立たせる。  スーツに革靴を履き、高級腕時計を身に着けた傑に対し、泥まみれの作業着姿の愛斗が並ぶと、視聴者の目にはどのように映るのだろう。悲しさを通り越し、哀れみすら覚える傑。 「浮浪者みたいな恰好でごめんね。これが僕の仕事着なんだ。はははっ」  傑の気持ちをよそに、愛斗は朗らかに笑っている。  それからしばらく、どうせ編集でカットされてしまうような軽い近況報告をしていたが、 「ところで、愛斗さんは今、少し変わったお仕事をなされてるんですよね?」 これ以上話していても不毛と踏んだのか、芸人が唐突に愛斗に話を振った。 「はい、そうなんです」  なんの仕事だろうかと気になる気持ちははっきり言って湧かなかった。例えどんな仕事だったとしても、自分の方が上等な仕事をしているという絶対的な自信があったからだ。正直、愛斗の作業着姿を見た瞬間から、傑は彼のことを見下していたのかもしれない。  愛斗が口にした職業は、そんな傑の想像もできなかったものだった。
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