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「こんなふうに子供みたいに遊んでるだけで生活できるなんて、泥団子職人っていい職業っすね。俺も転職しちゃおうかな」
芸人がおどけたように言う。瞬間、場の空気がピリッと張り詰めるのがわかった。愛斗も眉間にしわを寄せる。今のは明らかに失言だ。もちろん編集でカットされるだろうが、万が一放送でもされれば炎上必至な言動だ。
芸人はそんな空気に気が付かないのか、なおも続ける。
「でも、そんなに稼ぎはよくないんですかねぇ? 家はわりとボロっちいですもんね」
「えへへっ、一応ここは仕事用の借家で、住んでるところは別ですよ。まぁ稼ぎが無いのは事実ですけど」
「はあー。そうなんですねぇ」
愛斗はすぐさま大人の対応をしてみせる。傑は原因不明の苛立ちを覚え、唇をぎりっと強く噛み締める。
呑気な芸人は止まらない。
「どうですか、親友のすぐちゃんさんと並んでみて。差がついたなぁって感じはしますか?」」
「おいっ! 失礼だろ!」
反射的に怒鳴っていた。芸人はぎょっと目を見開いた後、小声ですみませんと呟いた。カメラが止まる。傑は憮然として芸人を睨みつける。同時に、苛立ちの理由を理解した。
ライバルの愛斗を馬鹿にされたことが、悔しかったんだ。
傑と稼ぎの差があったとしても、愛斗が彼のフィールドでやっていることは、とてつもなくすごいことに違いない。傑から見てもそれは一目瞭然だった。
傑とて、YouTubeを通して多くの人に笑顔を与えてきたという自負がある。それでもなお勝負がつかないと思えるほど、愛斗の作品は感動的なものだった。愛斗を馬鹿にすることは傑を馬鹿にすることと同義だ。許せない。そもそも、愛斗を愚弄していいのはライバルの自分だけだ。
そんな愛憎渦巻いた感情が、傑の心の真ん中に鎮座していた。
「すみませんでした……本気で言っていたわけではないんです。ただ、番組を盛り上げなきゃと思って……。すぐちゃんさんも。大事な親友を馬鹿にするようなことを言ってしまって……」
芸人が改めて愛斗と傑に頭を下げる。愛斗は「全然! もっといじってやってください」なんて笑っていたが、傑は不機嫌を隠そうともせず鼻を鳴らした。
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