四 べにばなさかうころ

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 幸太がお湯を沸かし始めた。コーヒーメーカーではなく、ハンドドリップで淹れるのだろう。  この特別な儀式は、母との再会を不安に思う陽向のためだとすぐに分かった。  ほろ苦いチョコレートのような芳しい香りが陽向の鼻先に届いた。  陽向は、冷蔵庫からレーズンサンドを出して、箱のままテーブルに置いた。 「お皿は出さないのか」  確かに、せっかく特別な儀式でコーヒーを淹れてくれているのだから、皿くらい出したほうがいいだろう。戸棚から桜の木でできたケーキ皿を出して、レーズンサンドを乗せた。  どうにもこれだけではバランスが悪い。冷蔵庫からもう一つ箱を出した。 「マカロンも食べていい?」  返事を待たずに可愛らしい小花のあしらわれた蓋を開けて、白いマカロンと薄い茶色のマカロンをそれぞれの皿に置いた。  レーズンサンドは琴音の土産で、マカロンは真紀に貰った。  琴音の土産というのが癪に障るが、レーズンサンドに罪はない。
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