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呼吸を整えて、指を離した。
「早くサッカーできるようになるといいね」
「おう。お前もさ、お母さんに会う前に幸太さんと仲直りしろよ」
「大丈夫だよ、明日には仲直りするから。橋北は明日から休み?」
「体育祭近いから休みたくねぇって思ったけど、この足じゃ体育祭も出れないしな。大人しくしてるよ。……陽向さ」
泣いたことはバレなかったみたいだ。棚の上からティッシュペーパーを数枚取りだし、そっと洟をかんだ。
「田圃道、絶対に一人で通るなよ。マジで危ないから。 後さ、あれ、あれだよ」
あれあれなんだろう。耳を澄まし次の言葉を待った。
「あー、ほら、陽向はさ、笑ってるほうが可愛いよ」
橋北の声が尻窄みになり最後はよく聞き取れなかった。それでも、なんて言ったのかは分かった。
明らかに声の調子がいつもとは違った。
言い淀み遠慮がちに発せられた言葉の向こうで、顔を赤くした橋北が見えるようだった。
保健室で感じた温もりが、瞬時に蘇る。
抱きしめられた腕は思っていたよりもしっかりしていて、肩も胸も広かった。橋北からは、幸太の香水とも違う、莉菜や麻帆の石鹸のような香りとも違う、初めての匂いがした。
いつもだったら憎まれ口を聞いて簡単に流せるのに、尻窄みの可愛いはいつまでも二人の間の電波を行き来していた。
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