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「あのさ、休みの間の授業のノートどこかで貸してくんねーかな」
わざとらしい明るい声が沈黙を破った。少し裏返ったその声のおかげで、少しだけ空気がいつも通りに戻った。
「いいよ。毎日持って行くよ」
「すげー助かる、ありがとう。でも、毎日は大変だろう。二日に一遍で大丈夫だよ」
「平気。毎日持ってく。病院は、橋北クリニック?」
「そう、橋北クリニック」
橋北の父は自宅の近くで入院設備の整った病院を開業していた。内科・小児科・整形外科・外科と生活に密着した診療科目を網羅した、地元ではちょっとした病院だ。
「そっか。じゃあ、やっぱり毎日持って行くよ」
「なんか悪いな」
「あんまん、冬の間中毎日ご馳走してくれたらそれでいい」
「そんなの余裕。でも、そうか」
橋北が言葉を切った。
切った言葉が続くまで、少し間が空いた。
「嬉しいな、入院しても毎日陽向に会えるんだ」
鼻の奥に、あの時の橋北の匂いが広がった。胸が疼く。苦しくて切なくて愛おしくて、視界が揺らいだ。
「うん、毎日会いに行くよ」
橋北の息を飲む音が聞こえたような気がした。
どちらからともなくおやすみを交わし、通話を切った。
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