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宿題を抱えた陽向は、幸太の部屋をノックした。チェロの音が止んだ。そっとドアを開けると、陽向の足を掠めてノラコが部屋へ入って行った。
「ここで宿題してもいい?」
「いいよ。なんだ、ノラコは昼寝か?」
幸太の足に顔を擦り寄せてから、ノラコは専用のベッドの中で体を丸めた。
陽向は幸太の机に教科書を広げた。幸太の机はアンティークで、オーク材でできている。今は幸太の机だけど、前は大志の机だった。
数学の宿題が五ページも出ている。ワークとノートを広げて、さっそく取りかかった。
幸太の奏でる旋律が陽向を包む。
ノートの上を走るシャープペンシルの音も心地良かった。
演奏曲が変わり、旋律が変わる。
陽向は、リズム良く問題を解いていく乾いた音を止め、チェロの音色に聞き入った。
「この曲、私が生まれた時に作ったんだよね」
幸太が目だけを動かして陽向を見た。
「そうだよ。die sonne、陽向の曲だよ」
die sonne。ドイツ語で太陽という意味だ。これは、陽向の誕生を祝って作られた曲だった。
大志も大好きだった。何かある毎に幸太にねだり、目を閉じて演奏に聴き入っていた。
陽向もこの曲が好きだった。いくつもある幸太のオリジナル曲の中で、優しく切なく明るいこの曲が一番好きだった。
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