四 べにばなさかうころ

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「明日は朝から出掛けるんだろう」  die sonneを弾きながら、幸太が目を上げた。  明日は、橋北の手術の日で、朝陽と会う日でもある。この間のように不意討ちではなく、きちんと約束をして親子として会う。親子として——。 「どうした?」  チェロの音色が途切れた。 「うん……。ねえ、幸太。ママは私を嫌いになって出て行ったわけではないんだよね。この間、私を捨てたわけではないって聞いたし、分かってるの。けど……」  ここ数日、落ち着かなかった。不安と期待がないまぜになって、なかなか眠れなかった。  迷惑ではないか、本当はとても無理をしているのではないか。  それなのに、どこかで期待している。  今まで会えなかった十五年分、愛してくれるはず、楽しい時間を過ごせるはずだと。 「夕飯前だけど何か抓むか。レーズンサンド、冷蔵庫にあと二つ残ってたから」  チェロを置いた幸太に促されて、陽向も立ち上がった。振り返ると、ノラコもちゃんとついてきた。  基本、幸太の部屋は陽向もノラコも立ち入り禁止だった。
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