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中学校を卒業したばかりの陽向は、自分はまだ子供の部類だと自認があった。大人になりかけの子どもには、こんな大人の通うようなお洒落なカフェは、どう考えてもハードルが高い。
でも、反面、憧れも大きかった。行ってみたいけれど場違いではないか、戸惑う気持ちの間で揺れていると、いきなり手首を掴まれた。
「いいのいいの、遠慮しないで。あそこね、友達が働いているの。一緒に行ってあげる」
幸太へのプレゼントを選んでいたときから、勢いがあり遠慮のない接客をする店員だった。
パーソナル・スペースの狭い人間はいつも図々しい。
無神経で他人の気持ちなどお構いなしに、陽向との境界をむやみやたらに侵そうとする。大切な思い出も大事にしたい思いも、平気で汚し目には見えない傷を陽向に残していく。
「お買い上げいただいたの、お父さんへのプレゼント?」
日除けの下を歩きながら、好奇心旺盛そうな瞳を輝かせて陽向の顔を覗いてきた。風に煽られた霰が頬に当たった。弾けるような刹那の痛みに顔を歪めて、陽向は首を横に振った。
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