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「もしかして、彼氏?」
「違います! 家族です。お父さんでもお兄ちゃんでもないけど、大切な家族へのプレゼントです」
照れなくていいのにとでも言いたげな顔で店員は陽向を見ていた。
本当に恋人ではないのに。だいたい、山の向こうの田舎に住むもうすぐ高校生になる少女に、ネクタイを贈るような恋人がいたら、事件に近い。
半ば呆れながらも、店員はとても楽しそうだし、人が悪いわけではないようだから、思わせておけばいいか。隠れて溜息をつくと、引かれるまま後をついて行った。
レジにいた女に陽向の世話を頼むと、割引券を置いて、店員は慌ただしく戻って行った。友人だという女は、店員に比べると格段に無愛想だった。
陽向を空気としか思っていないような無愛想なぐらいが、ちょうどいい。
遠慮もないけど悪気もない店員は、もう会うこともないことを踏まえてギリギリ許容範囲だ。幸太との関係に、土足で踏み込んでこられるのは、体育の持久走の距離が倍に伸びるよりも苦痛だった。
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