一 つばめきたるころ

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 他人に関心の少ない僅かな客と無愛想な女のおかげで、滞在時間は思った以上に心地いいものだった。  温かいミルクティーを啜りながら外に目をやると、霰の降る勢いが増したように感じた。パラパラと聞き慣れない音と一緒に聞こえてくる音楽が、すごくおしゃれで、ときどき、食事のあとに幸太がかける音楽によく似ていた。  いつか、幸太と二人でここに来たいと思った。メニューには、幸太が好きそうなものがたくさんある。難しい名前の飲み物はよく分からないが、『ブレンド』なら、たまに行く外食でよく頼んでいた。  スマートフォンで時刻を確認すると、バスの出発までまだ一時間ほどあった。陽向は読み途中の小説を開くと、もう一度、窓の外の霰を見つめた。  明日は幸太の誕生日だ。その上、朝から陽向の高校の入学式がある。  本来であれば、夜は盛大にパーティーをしたいところだが、そうもいかない。入学式のあと、少し離れたところにある父の墓参りに行くからだ。  帰りが遅くなるだろうから、明日はゆっくりお祝いをする時間がない。だったら今夜やろうと、一か月も前からサプライズ演出を計画していた。  サプライズといっても、計画はシンプルだ。  家の中の電気をすべて消して、恐る恐る入ってくる幸太に向けてクラッカーを鳴らす。驚いた幸太に、用意したプレゼントを渡すという算段だ。 「傘、持っていったかな」  すぐには止みそうにない霰の粒を追いながら、幸太が帰るころには雨が止むように天の父に祈った。
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