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箱を包む、新月の夜空のような紺青色の包み紙を、ときに力強くときに優しくチェロを奏でる細く長く美しい指が、優雅に解いた。
包装の下から出てきたのは、幸せに微睡む午後の淡い青空のような、少しくすみの入った光沢のあるブルーのネクタイだった。
「お誕生日おめでとう」
絶対に幸太に似合うと思った。きっと、これは幸太のイケメン度を爆上げするはずだ。驚く幸太の顔に、陽向はにやける顔を抑えられなかった。
「……ちょっと待ってて」
何かを思いついたのか、幸太がリビングから慌てて出て行った。
「見て陽向。これ、昔お父さんに貰ったんだよ。ほら、色が似てない? さすがは親子だね、好みが似ているよ。いや、俺に似合う色を分かってるっていうのかな」
右手にブランドタグのついたままの真新しいネクタイ、左手には使い古した同じようなブルーのネクタイを持って嬉々としてやってきた。
悪気はないのは分かっている。幸太は昔からこうだ。大志の恋人だから仕方がないのも分かっている。
でも、陽向には耐え難かった。
死んだ父親にプレゼントで負けたのだ。
なんて情けない。自分がではない。こうやって比べる幸太が、だ。
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