ガチムチと現場と私

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ガチムチと現場と私

「よお」  目をやると、そこにはタオルを頭に巻いてニッカポッカを穿いた赤沼さん──赤沼君でいいか──が、縁石に座り込んでいた。 「駐車場の土間コンがまだ乾いてないから、入るなよ」 「はーい」  パシャパシャ撮影していると、後ろに赤沼君が立っているのが分かる。 「どうしたの?」 「いや、頭皮まで真っ赤だな、と思って。除草までさせられるの? 営業って」 「いつもは業者さんに頼むの。仕事はいいの? 怒られない?」  赤沼君はにっと笑う。 「もう今日は上がり。この現場はヘルプで入ったんだ。本当は休みだったんだけど、雨が多かったから仕事少なくてさ。呼ばれたらあちこち入るようにしてる。あんたは?」 「私はいったん家に帰ってシャワー浴びてから、営業所に写真アップしにいく」 「まあ、どろどろだもんね」  乗車拒否されるほどじゃないと思うけど。 「汗臭そう」  ボソッと言われ、私は日焼けした顔をさらに真っ赤にした。 「他の乗客に迷惑かな」 「良かったら、送ってくよ。俺も似たようなものだし。軽トラで悪いけど」  少し迷ったけれど、お願いすることにした。  運転している彼の腕を見て、若干引いた。太っ! いや、ぱっつぱつだな、Tシャツの袖口。 「それって仕事だけでそんな筋肉になるの?」 「うん? ジムも行ってる」  どんだけ筋肉マニアなんだよ。 「緒方さんは、どうして不動産の営業やってんの? キツくない?」 「学生の時、宅建受けたら受かっちゃったから、なんとなく……かな」  そんな話をしながら、ちょっともじもじしてしまう。彼からは爽やかな制汗スプレーの匂いがするのに、私ったら汗脇シート一つも持ってきてない。  狭い車内より、電車の方が良かったんじゃないかな、なんて思っていたから。  無意識にエアコンのつまみを大にした。 「ごめん、臭わない?」  モジモジして言うと、赤沼君はふっと笑った。 「いい匂いだよ」  それから焦ったようにそっぽを向く。 「いや、わりぃ、セクハラ発言だったわ」 「いいから、前向いて前」  事故るわ。  アパートの前で降ろしてもらって、ふと赤沼君に聞いてみる。 「お家近いの?」 「ちょっとかかるかな。今日はブロック積んできたから、置き場に軽トラ置いて、鍵を社に返してから電車で帰る」  電車使うのか。まあ、女が臭うよりは乗客は気にしないのかもしれないけれど。  私は悩んだ。これってどうなのかな、と思いつつ相手が恩人であること、今回また借りを作ってしまったことを考慮し、おずおずと言った。 「変な意味じゃないんだけど……。シャワー、うちの使ってく?」  赤沼君は目を丸くした。 「え、それって?」 「え?」 「食っていいってこと?」  変な意味じゃないって言ったよね!? いや、でも確かにそう思われても仕方ないか。 「なんでもない、聞かなかったことにして」  慌てて取り消すと、赤沼君は爆笑した。 「わりぃ、あまりに無防備だからさ」  ひとしきり笑った後、真顔で言った。 「じゃあ、借りるわ」 「あの、私部屋の外に出てるからさ、先に使って帰ってくれれば」 「俺はもう仕事無いから、先に使いな。なんにもしない、ナンニモシナイヨー」  本当だろうな! 「あんたが身支度整えてる間、さっと浴びるよ」 「着替えは?」 「盛大に汚れた時のために、いつも持ってる」
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