第13話「背中合わせ」

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第13話「背中合わせ」

 ニヤリと笑い合う二人。  ぐ、ぐ、ぱんぱん♪ と、二人してサムズアップ。  最後にハイタッチ! 「「いえ~い!」」  そこに、頭部がぶっ飛んでグッチャグチャになったジャイアントオーガが斃れる。  そのまま、下に群がるオーガを十数体巻き込んで───……。  ズッドォォォォオオン…………ォン、ォン───。  巻き添えで、プチッと潰れたオーガ達。  おかげで、生き残りは数十体ほど。  砂埃が腫れた後には、戦場に静けさが戻り───。  しーーーーーーーーーーん……。  あまりの爆音、  あまりの衝撃、  あまりの勝利───……。  そりゃあそうだろう。  これにはさすがにオーガ達も沈黙せざるを得なかった。  いきなりの爆発。  そして、突然の指揮官不在と、重戦力(ジャイアントオーガ)の粉砕。  いくらオーガでも唖然とせずにはいられないだろう。  ほんの数瞬まで、血の匂いを嗅ぎ───女の悲鳴を聞いて、興奮して血沸き、肉踊るまでに本能のまま沸き返っていた彼らをして沈黙するのだ。  ナナミの一撃は、  それほどまでに衝撃だったのだろう。 「ぐ……。な、何が起こった?」  全裸に剥かれかけていたメイベルは、オーガの群れの中で放り捨てられていた。  彼女はボロキレで危うい部分を隠しながら、短剣を手にヨロヨロと立ち上がる。  だが、猛たちはメイベルには目もくれずに気の合った様子で笑い合っている。 「はは……! ナナミ、助かったよ」 「うん! 猛のピンチ……見過ごさないよ」  あぁ、本当にありがとう───。  お前は最高の幼馴染だよッ!  メイベルの目の前で陽気に健闘をたたえ合う猛たち。  避難させたはずの少女が戦場に乱入してきたのだ。メイベルの思考がフリーズしても仕方のないことだろう。 「な、ナナミ……どの?」  「どうしてここに……?」と、その言葉をメイベルは飲みこんだ。  なぜか、エルメスに避難させたはずのナナミがここにいるのだ。それは、何を意味するのか。    だが、その驚きもさることながら、彼女が魔人(オーガチーフ)重戦力(ジャイアントオーガ)ごと叩き潰したことの方が衝撃だった。  自らの目で見て、確認したのだ。  間違いない!  そう、間違いなくナナミが大魔法を使ってオーガチーフを吹き飛ばしたのだ。  ……あまつさえ、  最後のジャイアントオーガごとまとめて。  それは、その目で見るまでメイベルには信じられなかっただろう。 「まさか…………」  初めて勇者たちを保護した時に、猛が言っていたことは本当だったのだと。  ドラゴンを倒したのは間違いなくナナミなのだと、ここで確信したメイベル。 「…………ばか、な」  確かにナナミには魔力を感じなかった。  それどころか、膂力ですら一般人の域を出ない普通の女の子だったはず───なのに。  まさか。  まさか! 「彼女も…………ゆ」  メイベルが茫然と呟くその瞬間、 「やばッ! ナナミぃ、まだオーガがいっぱいいるぞ?!」  今しがた戦力の半分近くを失ったオーガの部隊。  指揮官すら失った彼らはキョロキョロと周りを見回すも、誰も指示をしないからか動き出そうとしない。 「大丈夫じゃないかな~? リーダーを倒したんだし?……あ、でも、まだステージクリアにならないね?」 「お、これ見りゃ連中びびるんじゃないかな?」  猛は地面に転がるオーガチーフの生首を拾い上げた。  それは硝煙漂うズタボロの首。  半分近く潰れており、残った面影も実に恨めし気だ。 「猛。これ」  ん? 「刀もあるよ~?」  ナナミがヒョイっと拾い上げた曲刀を猛に手渡す。  彼女が渡してくれたのはオーガチーフが使っていたオリハルコンの曲刀だ。  それは鈍い金色をしており、いかにも業物と言った感じだ。 「お! これがオリハルコンの刀か! スゲー……かっこいいな!」 「わ! 猛ぅ、似合う似合う♪」  パチパチと手を叩いて猛を褒めるナナミ。  もともとオーガチーフが使っていただけに人間が使うとまるで大剣のようにも見えた。 「へへ。大剣かー! こりゃ勇者っぽくていいな!」  しかも、オリハルコン製。  猛はそれを軽々と使いこなし、手に馴染ませるようにビュンビュンと振り回して見せた。  勇者の力を欲した猛ゆえ、その能力が何か補正を与えているのかもしれない。  まるで昔からの相棒のように曲刀が手に馴染んでいく。 「重いけど……断然こっちの方がしっくりくるぜ」 「えへへ。お侍さんみたいだよ」  ニッコニコ顔のナナミ。  猛はそれを照れくさそうに見返しながら、彼女の頭を軽く撫でる。 「ありがとう……助かったよ」 「えへへ。いつでもそばにいるよ!」  二人だけの空間を作り出した猛たちだが、オーガどもがそう簡単に諦めるはずもない。 《ごるるる!?》 《ごるぁ?!》  指揮官を失って統率こそ失ったものの、それはすなわち元の野蛮なモンスターとして解き放たれるだけのこと。  肉があって、  女がいれば喰らわずにはおられない。  ふしゅー  ふしゅー 《ごるるるる……》 《ぐぉぉおお……!》 《ごあぉああああ!!》 「お? なんだ、やる気みたいだな?」 「ありゃ? モラルブレイクを起こすかと思ったんだけどー?」  猛もナナミも首を傾げているが、全く危機感を感じていない。  だって、  勇者がオリハルコンの剣を手にして、  隣には最強の幼馴染がいるんだぜ?  いったい何に危機感を感じるってんだか? 「じゃ、俺もナナミにいいとこみせないとな」 「猛はそのままでいいよー?」  そういうわけにはいかない。  さすがに最初から最後までナナミに頼りっぱなしではカッコ悪いし……。  だから、たまにはいいとこ見せないとな!  すぅ……。 「───テメェらのボスは仕留めた! 死にたい奴からかかってこぉい!!」  ドンッッ!!  オーガチーフの見せた「縮地」を模倣するが如く、猛が一機にオーガの集団につっかける。  そして、両手に持った曲刀を振りかぶるとぉぉぉおお…………───! 「うらぁぁああ!!」  ズバンっ!!!!  一閃ッ!  一閃である!!  猛も予想しない程の威力の衝撃波が迸り、  その凄まじい威力がオリハルコンの強度を助けにオーガの集団を切り裂いた。  数体のオーガ達があっという間に半身を断ち切られボトボトと崩れ落ちる。  その威力たるや……! 「ひぇぇぇ……」  ぶっ放した猛自身腰が抜けんばかりに驚く。  武器が違うだけでこうも差が出るとは───……。 「た、猛、すごぉい……!」 「これが……勇者の力?! す、凄まじい」  ナナミとメイベルが猛の力を惜しみなく称賛する。 「び、ビックリしたー……なんかスキルっぽいのでたぞ?」  猛はジッと手元の剣を見つめる。  ただ一発ブチかましてやろうと思っただけなのに予想外の威力。  でも、  これでビビッて逃げてくれれば───。 「猛。油断しちゃだめだよ?……まだ終わりじゃないっぽい」  ニヒッと口角をあげるナナミ。  彼女の目の前にはオーガの残余がまだ数十体ほど。  数では圧倒的に不利だ。  猛側の戦力は、  勇者×1  武装JK×1  半裸騎士隊長×1  対してオーガは約5~60体ほど。 「お、おう……結構いるな」 「二個小隊ってとこだね」  不敵に微笑むナナミは猛に背を預けてくれた。 「メイベルさんは避難してください。絶対にナナミの正面には立たないように───」 「わ、わかった───」  素直に頷くメイベル。  既に自分が戦力外であると理解しているのだろう。  変にプライドをこじらせて邪魔をしないだけでも、的確な判断ができる女性らしい。 「さて、」 「私こっちね」  了~解ッ。  そうして、二人して半分ずつに分けたオーガを睨む。 「ナナミ」 「猛ぅ」  ニッとお互い笑みを躱すと、コツンと軽く拳を肩越しにぶつける。 「背中、任せるぜ」 「おっまかせ~♪」  ニヒッ。  悪戯っぽく笑うナナミ。  彼女の手にはAK-47(カラシニコフ)。  ありとあらゆる戦場で活躍し、地球でもっとも生産された銃───。  その信頼性は異世界においても揺ぎ無い! 「いくぞ!」 「いくよ♪」  猛はオリハルコンの刀を正眼に構えると息を落ち着け「ふー……っ」と軽く吐き出す。  そして、カッ! と目を見開くと、 「かかってこいやぁぁぁあああ!!」 「かかってこーい♪」  そして、始まる二人の快進撃!! 》  対して、オーガ達が怒りの咆哮をあげた!
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