第3話「レベルアーーーップ!……って、あるぇ?」

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第3話「レベルアーーーップ!……って、あるぇ?」

 そういえば、ナナミはちょっと変わった子だった。  幼馴染として、長年付き合ってきた猛には違和感を感じなかったものの。  普通の女の子がアイドルだの、芸能人だのにうつつを抜かしてキャーキャー言っているときに、ナナミはといえば───やれ観艦式だとか、やれ自衛隊の公開訓練だとかに目を輝かせていた。  横須賀なアメリカ軍の空母が入港してるときは大興奮していたものだ。  というのも、ミリタリーおたくの父親と兄の影響をガッツリ受けていたのだろう。  反対に猛はさほど興味がなかったので、「ふ~ん」くらいにしか思っていなかったけど、休暇の度に遠くの基地だとか駐屯地にニコニコしながら家族で出かける姿にはちょっとだけ変だな? とは感じていた。  そして、  そのままちょっと変わった女の子として、猛と同じ高校に上がったナナミであったが、その頃には彼女も年頃の少女らしくスマホゲームに熱中していた。  休み時間にキャーキャー騒ぎながら、少ない人数ではあったものの、仲の良いグループで集まってピコピコと遊んでいたんだけど……。  そういえば、  今思えば、あれ───スマホでできる『FPS』だよね?  教室で、女の子同士が固まって「実績解除きた~」とか「航空支援がアンロックできたー」とかなんとか言ってたけど…………。  え、マジで?  マジで異世界にそれ願っちゃう?  ねぇ?  ねぇ、ねぇ……?  普通さ。  RPGって言ったら剣と魔法だよね?  エルフとか、ドワーフだよ?  あとドラゴン。  なんで?  ねぇ、なんで??  なんで『RPG-7』が、一番最初に頭に浮かんじゃうの?  そこんとこ、どうなの? 「あはッ♪ 見て見て猛ぅ! 一発で仕留めたよ」 「あ、うん……」  凄い、凄い……。  そりゃー、近代兵器にドラゴンが敵うわけない。 「凄い? 凄いぃ?」  嬉しそうに屈託なく笑うナナミ。  …………改めて見る幼馴染の姿は、じつにブッ飛んでいた。  だって……。  耳まで覆うフィールドグレーのヘルメットに、ゴーグルのようなシューティンググラス。  そして、胸と腹を守るゴッツイ防弾ベストに、たくさんついた機能的なポーチ。  それらを制服の上に着こみ、満面の笑み。  極めつけは、  …………肩に担いだデッカイ対戦車ロケット弾発射機───RPG-7!  ………………異世界にRPG-7。  うん。もう違和感しかない。  そんでもって、  硝煙臭いそれは、たった今──戦車を屠る鉄の刃をドラゴンに叩きつけたばかり……。    あえて言おう。これは現実なのだ。   「にひひ、ヴィ()!」  そして、転がるドラゴンの頭に片足をのせてVサイン。  ……パンツ見えてるぞ。  すげーわ、ナナミさん。  もう脱帽と言わんばかり。  茫然と、ドラゴンと幼馴染のパンツを見上げる猛。  相変わらずぶっ飛んでる。  ……可愛いけど。  ナナミだけは、満足気にヘッドショットをアピールしている。  そこに、  ───ポーン♪  突如、半透明のガラス板のようなものが軽快な音とともに二人の前にあらわれた。  へ? 「ありゃりゃ?」 「な、なんだこれ?」 『猛はドラゴンを退治しました』 『ナナミはステージをクリアしました』  ───ポーン♪ 『勇者「猛」はドラゴンを倒した(アシスト)経験値が付与されます』  《経験値15989獲得》  まるでステータス画面のように見えるそれ。  何の説明もなく、勝手に数値だけが表示され、ジャキジャキジャキ!! と高速回転し、二人に何らかの数字を付与していく。 (こ、これって──────?!)  も、もしや……!  ジャラララララララララララ……!!  猛の目の前のステータス画面には、『経験値獲得』と小さく表示されている。  そして、付与される数字が猛烈な勢いで回転していき、次のLvまで───「XXXXXX/45」という数字が狂ったように上昇し続けていた。 「……こ、これ!───ステータス画面か?! もしかして、ドラゴンを倒した経験値が付与されたってことなのか?」 「すてーたす画面?」  ……こりゃ、いよいよマジでRPGの世界だな。  すげぇぜ───……。  ジャララララララララ───ラ、ラ……。ディン♪  そして、ようやく数字の回転が止まったかと思うと───。 『ポーン♪』 『ティリィ~ン♪』  軽快な音共に、ステータス画面が輝く。  ポーン♪ 『猛はLvが上昇した─── 『猛はLvが上昇した─── 『猛はLvが上昇した─── 『猛はLvが上昇した─── 『猛はLvが上昇した─── 『猛はLvが上昇した─── 『猛はLvが上昇した───』  『ステータス画面から、ステータスポイントを割り振ってください』  お、 「───おぉ! Lvがアップした?!」  ステータス画面の数字が猛烈に回転していたかと思えば、突如緩やかになり、猛のLvを表すであろう数字がフラリフラリと───止まる。  Lv1 → Lv23(New!!) 「お……。おぉぉ?! い、いきなりLv23?!」  ど、どんだけ格上だったんだよあのドラゴン───……?!  そりゃ、RPG序盤でドラゴンが出るとかゲームバランスが狂ってるけど……。 「あ、そうだ! ナナミ、」  ナナミも、さぞやLvが──────。 「わ♪ みてみて、猛ぅ。ほらほら、新しく『実績解除』されたよ?!」  ─────アップ……。   …………え? 「じ、」  ───実績??  …………ナナミ、お前何言って、  ───ティリ~ン♪ 『ナナミ、ミッションコンプリート! ステージクリアにつき、ポイントが付与されます』  《SP(ソルジャーポイント)98775獲得》  ふぁ?!  ───ティリ~ン♪ 『ナナミ、勝利条件、ドラゴンの撃破───完遂。ポイント計算にうつります』  あ、あれ………………?  な、  なんか……。  ナナミのと、俺のとでは画面が…………違くない?  猛のステータス画面では、Lvが1から大幅に上昇する。  いわゆるRPG的なステータス画面。  一方───。  対面にいるナナミはといえば、目をパチクリさせながら自らの前に浮かんだステータス画面を見ているのだが……。  ナナミの目の前のそれ。  猛はナナミの対面にいるため、彼女のステータス画面が反転してみえているのだけど。 「な、なにそれ───?」  なんか表示が違くない?  猛は自分の目の前のステータス画面と、反転して見えるところのナナミのそれを見比べる。 「え、そうかな───??」  猛のステータス画面は、よくあるRPGの表示に似ている。  いわゆる、Lvとステータス表記だ。  こんな風に。 《ステータス画面》  ●一般情報  名 前:藤堂 猛  種族等:人間(男)  職 業:勇者  ●ステータス  Lv1→23(UP!)  HP:25→275(UP!)  MP:12→262(UP!)  SP: 5→255(UP!)  筋力:45→295(UP!)  敏捷:32→282(UP!)  耐久:24→274(UP!)  魔力:18→268(UP!)  詠唱:11→261(UP!)  対魔: 6→256(UP!)  ●スキル  スロット1「未設定」  スロット2「未設定」   スロット3(増加!)  スロット4(増加!)  スロット5(増加!)  ●割り振りスキルポイント  『+250』(NEW!)  うん。  …………………………普通。  これなら俺にもわかる……。  Lvが滅茶苦茶に上がったのが普通かどうかは置いておいて───。  きっと、Lvが1づつ上昇するたびにステータスは自動的に+10と、満遍なく上昇するのだろう。    さらに、自由に割り振ることのできるステータスポイントがLvごとに「+10」付与されるというシステムらしい。  それを自分の意志でステータスに反映させることができる───と、そういう仕様だ。  ……………………で。  で、ナナミなんだけど──────。 「実績ってなんだよ?」 「ほぇ?」  しかも、経験値じゃなくて、《SP》?  スキルポイントじゃなくて、ソルジャーポイント?!   なんだよ、それ?! 「───お、おい……ナナ」 「わ、まだ来るよ」  ───ティリリン♪ 『ナナミ、勝利条件のうち。ボーナス要素をクリア 1/3 ヘッドショットによる撃破』  ボーナス+SP20000 『ナナミ、勝利条件のうち。ボーナス要素をクリア 2/3 命中率100%による撃破』  ボーナス+SP30000 『ナナミ、勝利条件のうち。ボーナス要素をクリア 3/3 友軍の被害0による撃破』  ボーナス+SP50000  ───は?  ティリン♪ 『ナナミ、ボーナス要素をコンプリート。特別報酬としてボーナスポイントを付与します』  ───ボーナス+SP100000 「わわッ! いっぱい来た~♪」  《SP(ソルジャーポイント)200000獲得》  ティリ~ン♪ 『ナナミ、実績解除。一部武器がアンロックされます』  ティリリリン♪ 『ナナミ、称号獲得『ドラゴンスレイヤー』───特殊武器がアンロックされます。特殊ペイントがアンロックされます』 『ナナミ、称号獲得『初見殺し』───特殊武器がアンロックされます。特殊ペイントがアンロックされます』  ティリ~ン♪ 『ナナミ、チュートリアルを終了します───初回ボーナス『初心者特典』がロックされます』  ティリーン♪ 『ナナミ、チュートリアル終了につき、「ステータス画面(ウィンドウ)」及び「SHOP画面(ウィンドウ)」が使用できます』  ステータス画面が幾度となく輝き、次々に新しいウィンドウが開いては閉じていく。  ナナミのステータス画面は大忙しだ。  しかし、ナナミはと言えば、まるでスマホでも弄るかのようにカチカチと操作して、キチンと理解している様子。  …………なんか慣れてません? ナナミさんや。 「あー。初回限定装備はもう使えないみたい。残念……。壊れたら新しく買わないと、だね」  ナナミが、手慣れた様子でカチカチと画面上のグレーアウトした小さなウィンドウをポチポチと叩くも、「ブブー!」と拒否アラームが鳴り響く。 「ぶー……! 最新の武器使えないのー?」  ナナミがタッチしているグレーアウトしたそれは、うっすらと『RPG-7』のシルエットを象っているようにも見えるんだけど……。 「───えっと、ナナミさん?」 「ちぇ~……。まだ、ステージが序盤だから強制ロックされてるのばっかり。しょぼ~ん」  初回装備とやらが、改めて使えるかどうか確認していたナナミ。  何故か本気でナナミは肩を落として、ガックリしていらっしゃる。 「…………ま、いっか♪ アンロックされた装備みてみよ~っと」 「あの……。ナナミさん?」  ナナミさんたら、喜んだり悲しんだり豊かに表情を替えながら、今は初回装備を諦めて、かわりに「SHOP画面」を開いていらっしゃる。  うん………………。  ───なんだろう。  「SHOP画面」の項目なんだろうー。  あそこに並んでいる、『カスタム』『兵器購入』『支援要請』とかの項目───なんだろうー。  うん…………。  グレーアウト(・・・・・・)してるけど、『兵器購入』の先───なんか戦車っぽいシルエットとか、ヘリコプターのシルエットってチラホラと……。  あれ、なんだろう~。  あはははー。俺知らなーい───。 「う~ん。しょーがない……。初回装備の『RPG)は大事に使っていくとして、まずは予備の弾頭と……───あ! 『AK』買えるぅ♪」  ニコォと顔をほころばせたナナミ。  思わず蕩けるようなそれをみて、猛の顔が朱に染まる。  …………ってか、  い、今。 「───AK(エーケー)って言いました?」
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